約 3,262,189 件
https://w.atwiki.jp/legends/pages/2617.html
4月某日 喫茶店 ルーモアにて 「…そうか。「日焼けマシンで人間ステーキ」の青年のアルバイト先にも、悪魔の囁き感染者はいなかったか」 「はい、今のところではありますが」 黒服とTさんは、悪魔の囁き騒動に関する事で、情報交換を行っていた 電話でも話せる事ではあるが、直接顔を合わせて情報交換を行うのが一番だ 「朝比奈 秀雄の三つ目の都市伝説に関しましては、まだ、正体が確定できません。いくつか、心当たりはあるのですが…」 「…怪力に高い防御力、炎と毒のブレスか……心当たりはあるが、それでだけはあってほしくない、と考えたいところだな」 Tさんの言葉に、全くです、と小さく苦笑する黒服 …「組織」内部でも、これでは、と予測は立てられ始めている…の、だが まだ、核心できるほどの情報は少ないのだ もっとも、朝比奈 秀雄の最後の都市伝説がそれであると「認めたくない」だけなのかもしれないが 何せ、それは……あまりにも、強力すぎる都市伝説だ 単体契約でも、それと契約した瞬間に飲み込まれる可能性が高い それを含めた多重契約をしているのなら……朝比奈自身の「器」は、はたしてどれだけ強大なのか それを考えるのが、恐ろしいのかもしれない 「それと…朝比奈 秀雄に、都市伝説の契約書を横流ししていました「組織」の裏切り者が、判明しました」 「…「コーラにはコカインが含まれている」の支配型の契約者が増大した原因を作った者か」 「はい…H-No.9。「病は気から」に飲み込まれた存在です。私は担当部署が違いますので詳しくは知りませんが、元々は研究班に所属していたようですね」 …「13階段」の契約者たる広瀬 辰也にとっては、因縁のある相手である事を、この黒服も把握している 彼が、今回のその事実を知ったならば…H-No.9が「組織」から離脱し、討伐対象になっている事を知ったならば…復讐の為に、先走った行動をしなければ良いのだが この黒服は、それを心配する 「それと……その、朝比奈 秀雄の目的なのですが。翼の実家の権力以外にも、狙っているものがある可能性が、出てきました」 「……それはもしや、「小瓶の魔人」か?」 Tさんの口から、「小瓶の魔人」と言う単語が出て 黒服は、思わず眉をひそめた …まさか、だが 「あぁ、朝比奈 マドカから聞いたんだ」 「…やはりですか」 彼女の軽率さに、かすかに頭痛のようなものを覚える 相手が、Tさんだから良かったものを あのような存在については、あまり口外すべきではない 「黒服さんも、それについて知っていたか」 「…日景家を訪問した際に、その小瓶を拝見しました。小瓶の中から、威圧感を感じる程の強い都市伝説の気配を感じました…あまり、長くそばにいると、その威圧感に押しつぶされるのではないかと言う錯覚を覚えましたよ」 「なるほど、本物か」 はい、と頷く黒服 …朝比奈 秀雄が、その存在を把握している可能性がある 朝比奈 マドカが、その存在を口走ってしまっている可能性が高いからだ こう言っては悪いが、彼女は後先を考えない部分がかなり、あるようだから そうじゃなくとも、酒の勢いで口走ってしまった可能性も、高い 「…Tさん、申し訳ありませんが。その事は、できればご内密に」 「あぁ、わかっている。願いをかなえる都市伝説を保有している、と言うのは………不幸を招く情報だからな」 自身も、そう言った経験をしているからだろうか 神妙な表情のTさん 「「日焼けマシンで人間ステーキ」の青年は、その情報は」 「把握しています。あの子も、朝比奈 秀雄はその小瓶も目的としている可能性が高いのでは、と言っていました」 だからこそ、翼は余計に、朝比奈 秀雄を倒さなければ、と考えている …たとえ、その命を奪う事になろうとも だが、優しい翼の心が、肉親殺しと言う業に耐えられるとは思えない ……だから いざと言う時は、自分が、翼の代わりに手を下そう 黒服は、そう決意する 「……黒服さん。背負い込みすぎないようにな」 「はい。お心遣い、ありがとうございます」 黒服の表情から、何かを感じ取ったのだろうか Tさんの言葉に、黒服は小さく苦笑して答えた さて、あと、Tさんに伝えていない情報は何であったか 黒服が、情報を整理していると …からん…ころん… 「あ、いたいた。Tさーん、黒服さーん」 「おにいちゃーん」 店内に、Tさんの契約者の舞と、リカちゃんが入ってきた そして、舞の後を付いて来るように、ゴスロリ服の少女が入り込んでくる その少女の姿に覚えがある黒服は、おや、と小さく声をあげた 「ヘンリエッタさん?」 「おぉ、D-No.962か」 「…あれ?黒服さん、知り合い?」 首を傾げた舞に、はい、と答える黒服 てとてと、舞達は黒服とTさんの席へと近づいてくる 「私の上司が担当しております、契約者さんです」 「うむ。そして、望の友達なのじゃ!」 どこか誇らしげに、ない胸をはってそう言ったヘンリエッタ ヘンリエッタの声に、Tさんが聞き覚えがあるような表情を浮かべたのだが、黒服は気づいていない 「なぁ、Tさん。あのユニコーンの兄ちゃん、やっぱり、悪魔の囁きにとり憑かれてたみたいだぞ」 「…!また、遭遇したのか?」 頷く、舞とリカちゃん 黒服も、眉を潜める 「…また、悪魔の囁きにとり憑かれている者が、現れたのですか?」 「うむ、妾が調べたのだから、間違いないのじゃ!」 再び、胸を張って言うヘンリエッタ 黒服は、難しい表情を浮かべる 「…近頃、「リア充爆発しろ」の能力によるものと思われる爆発事故が多発していまして。「組織」としては、その契約者が悪魔の囁きに騒動に関連している可能性を調べていましたが……ユニコーン、ですか」 ユニコーンは、貴重な都市伝説だ 確か、ヨーロッパでも数えるほどしかユニコーンと契約した存在はいない 後で、「薔薇十字団」に問い合わせれば、何かわかるかもしれない 新たな情報を手にして、黒服は思考をめぐらせるのだった to be … ? Tさん「コーク・ロア:お嬢さん」へ 前ページ次ページ連載 - とある組織の構成員の憂鬱
https://w.atwiki.jp/legends/pages/1208.html
悪魔の少女 02 平凡な親、平凡な友達、平凡な学校、平凡な自分、平凡な人生。 漫画やアニメの世界に憧れて十余年。何もない人生に絶望していた俺に、遂に転機が訪れた。 都市伝説「ベッドの下の殺人鬼」との契約。 これが、これこそが、俺が求め続けた平凡じゃない人生! さて、漫画ではこんな時どうなるか?そう、敵キャラの登場だ。契約時にテケテケを倒しているが、そんな雑魚は求めてない。 必要なのはライバルだ。野良なんかじゃない、同じ契約者の敵。そういうのを俺は求めているのだ。 そして遂に、俺は別の契約者を見つけた。 俺は何時ものように、都市伝説を捜していた。 都市伝説から人を助けるなんて事は、平凡じゃない俺にしか出来ない事なのだから当然だ。 そんな時、その女を見つけた。平凡な奴にはわからないだろうが、何しろ俺は契約者、その女がそうである事など一目でわかる。 だから、女と戦う為に俺は女を追った。 女の後を追って着いたのは、どこかのビジネスホテルだった。 女がホテルの一室に入るのを見届けた後、俺は相棒を女の入った部屋のベッド下に移動させる。 数分後には、相棒が女を襲う。突然の襲撃に女は何も出来ずにやられるだろう。 この程度の奇襲でやられるような奴は、俺のライバルに相応し…く、な……い? おかしい。相棒の気配が消えた。契約もきれた。 「な、なんだ?何が起きてるんだ?」 「お前の都市伝説が死んだ、それだけだ。」 女が隣の部屋から現れる。 「!な、お前さっきそこに入ったはずじゃ!?」 「ああ、このホテルな、隣の部屋にベランダを使って行き来できるんだよ。お前がついて来てるのに気付いてたから、移動した。 で、その部屋にいた奴らに『頼んで』私の部屋で待機してもらった。」 有り得ない。主人公がいきなり負けるなんて、そんな漫画知らない。 「さて、誰だか知らないが、いきなり人を襲撃するような奴には、お仕置きしてやらなきゃな。」 ああ、そうか、俺はゲームの主人公だったんだ。じゃあ、そろそろリセットしないと……。ボタンはどこだっけ。 ざんねん! おれの ぼうけんは ここで おわってしまった! * 学校町南区某ホテル 一人の少女がため息をついた。 「はぁ~。まさか着いて一週間もたたずに襲撃されるとは。」 彼女はベッドに寝転びながら、悪魔を憑けた隣部屋の客に彼女の荷物をまとめさせた。 もし、先程の襲撃者がどこかの集団に属していた場合、報復のおそれがある。 下手に騒ぎを起こして、どこぞの「天使の援軍」に見つかりたくはない。 故に、さっさとここから離れようと考えたのだ。 「それじゃ~、行こうか~。」 そう言って少女は、見えないモノ達を引き連れて、学校町の何処かへ消えて行った。 ちなみに、襲撃者と隣部屋の客が、財布の中身が空になっている事に気付くのは、この暫く後である。 前ページ次ページ連載 - 悪魔の少女
https://w.atwiki.jp/legends/pages/800.html
黒服Hと呪われた歌の契約者 14 世の中には、「運命の出会い」と言うものがあるそうです しかし、その「運命」と言うものを信じない方もいらっしゃるでしょう えぇ、いいのです、だって、信じるものは人それぞれですもの ただ、私は、運命というものを信じております 強く、強く、信じております …だって、私は、あの方に会う事ができたのですから だから、私は運命を信じておりますし 出会う事が出来たあの方の為に、少しでも力になりたいと願うのです 私はかつて、とある都市伝説によって捕らえられておりましたの とても口には出せぬ扱いを受け、その内、どこか、遠く離れた国へと、売り飛ばされようとしておりました 私の他にも、何名かの女性が囚われておりました 皆、私と同じ扱いを受け、いつかは売り飛ばされる運命だったでしょう ………しかし、そこに あの方が、助けにきてくださったのです 私たちが囚われていた部屋の扉をこじ開け、私たちに手を差し伸べてくださりました そうあの時は……あの方の髪が伸び続けていましたのが、とても印象的でしたわ 他の皆様は、あの方を怖がっておりました …気持ちは、わかります 皆、私たちを捕らえた男性に、それはもう、酷い目に合わされておりました 私を含めて皆、随分と辱められたものでございます ですから、皆様、男性だと言うだけで酷く怖がりました …しかし、私には 私たちを助けにきてくださったあの方が、まるで、勇者か王子様のように見えたのです あの時、私以外に助けられた方々が、どうなったのか、私にはわかりません 他の方々は、都市伝説とは契約なさってなかったようですので…恐らくは、記憶を消されて、普通の生活にお戻りになられたのでしょうね しかし、私は違いました 私は、都市伝説と契約しておりましたので……そのまま、「組織」に所属させていただく事になりましたの 嬉しい事に、私の担当になってくださったのは、あの方 それを知った時は私、もう、天にも登る気持ちでしたわ 今でも、あの方は私の担当でいてくださっております もう一人、可愛らしいお嬢さんのことも担当なさっておりまして、そちらの事ばかり気にかけていらっしゃるようで…少し、寂しいですけれども でも、平気なんですの 放置される事もまた、プレイの一環 私、甘んじてそれを受けますわ ……そう、私に、とって あの方は、この世でたった一人の、大切な方ですの 私にとっての、勇者様 私にとっての、白馬の王子様ですの ですから、私…あの方の為ならば、なんだってしてみせますわ かつては怖かった、私が契約した都市伝説の力 でも、もう怖くありませんわ あの方の為でしたら、私、いくらでもこの歌を歌いましょう あの方のお力になれるのでしたら、この身が血で汚れても構いません あの方が、何を考えているのか 「組織」をどうなさろうとしているのか そんな事は、些細な事でございます ただ、私はあの方の力になりたい、あの方の為になりたい …ただ、それだけなのでございます fin 前ページ次ページ連載 - 黒服Hと呪われた歌の契約者
https://w.atwiki.jp/legends/pages/3800.html
● モニカは寝台に拘束されたまま、ウィリアムの≪心霊手術≫を受け続けていた。 腹に手を差し入れられてそのまま中をかき回される不快感と、手と腹の接合部から溢れて来る血液の生暖かい感触に苛まれて嫌な汗をかいていると、不意にウィリアムが歓喜の声を上げた。 「見つけたぞ!」 その言葉と共に、モニカは自分の中の形の無い何かがウィリアムの手によって一つにまとめられ、固まって行くのを感じた。 な、なに、これ……? 得体のしれない不安に唇を堅く引き結ぶ。 固形物のように体内で形を得たそソレは、ウィリアムの手によって握りつぶされ、モニカの中で弾けた。 「――ッ!」 モニカが上げる短い苦悶の声を合図にするかのように、ウィリアムは宣言した。 「術式終了だ」 そうして、長らくモニカに不快感を与えていたウィリアムの手が引き抜かれた。 粘性を持つ液体から両手を抜きとる水音を一際大きく響かせ、ウィリアムの両手がモニカの中からずるりと抜けだす。 身構えをする間も無い突然の動作に、モニカはえずいて身を捻った。 「手こずらせてくれた……しかし流石に根が深いね。契約解除でなく封印という形でしかこれを隠蔽できないわけだ。ともあれ、これで封印は解けたよ」 寝台の上で苦しそうにえずくモニカを特に問題は無いと無視して、ウィリアムは大儀そうに息を吐く。 「まったく、追われている最中の短い時間の中で施したにしては大した封印だ。≪悪魔の密輸≫と言ったかね、レニーとトリシアの都市伝説は。 元々は体内に麻薬を埋めて密輸を行う都市伝説だったと記憶しているが、本来形を持たないモニカ嬢の都市伝説を体内という異界の中に封じ込んでしまうのだから恐れ入る。 彼等は普段、穏便に事を運ぼうとしていたものだが、いざという時は思い切りが利く……惜しい人材だったのだがね」 ガラスを連ねたような形状をした、妙な機材をいじりながらモニカの上半身と腕を拘束していた器具を外すと、ウィリアムは≪心霊手術≫で溢れた血液を拭くためのタオルと替えの簡素な衣服をモニカに放り投げた。 「さて、体に問題は無いかね? モニカ嬢」 モニカは自分の身体に何か変化が起こっていないかを探りながら服を着ていく。その間中決してウィリアムの方を見ようとはしない。完全にコミュニケーションを拒否する構えだ。 ウィリアムは反応を示さないモニカから早々に機材へと目を移して計器類を確認し、大丈夫だろうと判断を下す。さあ、と前置きを入れて、 「モニカ嬢。これで君は君の本分を果たす事が出来るぞ!」 「本分……」 その言葉にモニカは内心首を傾げた。 封印が解かれたとは言っても何を封印していたものなのかが分からない。先日からのウィリアムの話から想像するに、封印を施したのが両親であり、その封印されていたものこそがその都市伝説なのだろうが、そもそもモニカには都市伝説と契約した記憶などないのだ。 謎はあり、何がウィリアムの手によって起ころうとしているのか気になりはするが、今モニカにはそれ以上の心配事があった。 「……フィラちゃんたちはどうなったの?」 先程ウィリアムは、培養器の中から幾体もの異形の怪物達を由実達へと差し向けていた。そのすぐ後にウィリアムがマイクを通して話していた内容を聞きとると、どうやら怪物達と由実達は遭遇してしまったようだった。 無事ならいい。そう思いながらの問いかけに、ウィリアムは頷きを作った。 「彼女等は今は生きているよ。うん、よく粘る。しかし囲まれているね、このままではいずれ押しつぶされることだろう」 「そんな……!」 悲鳴のように上ずった声が漏れ、未だ拘束されたままの下半身が寝台の上で窮屈に動きを制限された。その不自由な状態が、とにかく行動を起こそうとするモニカの気を加速度的に焦らせる。 このよく分からない施設に攫われてしまったのは自分が迂闊だったせいだ。この上、自分をこの施設から助け出そうとしてくれている優しい人達にひどい事が起ころうとしている。その事にモニカは焼けつくような焦燥を覚えて、その原因であるウィリアムを睨み上げ、 対するウィリアムはふむ、と興味深げに訊ねてきた。 「君は、自分が何故こうして助けられようとしているのか、知っているかね?」 ● 無言を返事とするモニカへと、ウィリアムは更に言葉を連ねてきた。 「モニカ嬢、君の身体は都市伝説との親和性を高める為に様々な手を尽くしてあると以前話したね? 生まれる前からこちらで手を加えて都市伝説との親和性を高めて誕生した君は、≪神智学協会≫という組織の研究の集大成であり、オルコットが目指す目的の為の、二つの都市伝説を収めるための器だ」 そう言ってウィリアムは慈しむ、という表現が当てはまるような、完成された芸術品を愛でるかのような手つきでモニカの頬に触れる。 「君は気付いているかい? 今回君や君が姉と呼んだ女も。今こうして駆けつけている者達も。倒れて行った、あるいは倒れていく者達も。そして君の両親も――」 ここから先の言葉を聞いてはいけない。何故か本能的にそう思ったモニカは手で耳を塞ごうとし、しかしその手はウィリアムに抑えつけられてしまった。 ウィリアムの言葉が妨げられる事なく、耳から心へと侵入する。 「君を人として見ていない。君は誰かにとっての争いの火種で誰かにとっての悲願成就の為の道具で、そして誰かにとっての疫病神だ」 「――ちが」 「違いなどしないよ」 反射的に発されようとしていた反駁の言葉はウィリアムにその出鼻をくじかれる。 「むしろ君にそれだけの価値が付属していない限り誰も君を助けに等来るはずが無いだろう? 実の家族や家族のように親しかった存在が争い合う火種になったような君の存在を、本当に愛する者などいると思うかね?」 耳に飛び込んでくる言葉にただモニカは首を横に振って拒否を示す。 しかし疲労とストレスに思考力は削ぎ取られ、心理的な防壁はもろくも崩れ去る。そうしてウィリアムの言葉は否応なしに受け入れられていく。 口角をつり上げた笑みで、ウィリアムは断じた。 「君は人ではない、道具だ。それも、とてもとても貴重で危険な最高の逸品だよ!」 言葉は刃となってモニカの心を抉った。 実の両親と祖父の死。親しかった騎士が行った凶行。いつの間にか操られ、姉と慕う女性を危機に晒した事実。複数の組織間の抗争。その過程で失われていった多くの命……。 この数日で見て来て、知らされてきた事が脳裏を埋め尽くす。 わたしは……疫病神……皆を不幸にする、危険物で……わたしは……。 この数日でじっくりと悩む間もほとんどなく、様々な事実を突きつけられてきたモニカには、ウィリアムの発言は反論のしようのない事実に思えた。 「君はとても我慢強い。ワタシにもそれがよく分かる……。そしてね、モニカ嬢、ワタシには君が我慢して溜めこんでしまっているモノが見えるようだよ。精神の奥に凝り固まった膿がね」 強烈な自己否定と自己に対する忌避感が一挙に襲いかかる。 既にウィリアムによって意図的に均衡を崩されかけていたモニカの精神は、臨界点を迎え、 「そしてその膿こそが君の振りまく厄病の正体だ」 ――越えた。 モニカの中で、封印を解かれた強力な力が胎動する。 胎動が一拍を刻むごとに彼女の視界は霞み、意識が形を失って行く。その力に衝き動かされる形で、モニカは天を見上げた。 口を大きく開け、 「あ! あ……ッ、あ、ああ! あああああああああああ――――――ッ!!」 喉を自ら破壊しようとでもいうかのように暴力的な、自己を否定する嘆きの声がモニカの口から迸り始めた。 そして、 「ふ……っ! ははは! 成功だ! 本分を果たすと良いモニカ嬢! ワタシの望む結果を見せてくれ!!」 モニカの中に永らく封印されていた都市伝説が、彼女の嘆きに呼応するかのように暴発した。 前ページ次ページ連載 - Tさん、エピローグに至るまで
https://w.atwiki.jp/legends/pages/4992.html
「子供の頃傘持ってジャンプとかしたよね」 ざあざあ、ざあざあ。ざあざあ、ざあざあ。雨が降っている。学校の屋上に、傘をさした少女が一人。 屋上は弁当を食べたり、黄昏たりする場所であるというイメージがある。いくら傘をさしているとはいえ、本来雨の日に行く場所ではない。 しかしそこには確かに少女が居た。傘をさした少女が居た。ぴちぴち、ちゃぷちゃぷ、長靴で水たまりを踏みながら歩いていく。 そして。次の瞬間――― 「え~いっ!」 傘をさしたまま――――少女は飛び降りた。屋上から飛び降りた。 コンクリートから足を離した少女の身体は、そのまま地球の重力に従って、真っ逆さまに――― ―――落ちなかった。何ということだろう。その少女の身体は、ふわふわと。ふわふわと、宙を舞っているではないか! 背にパラシュートを背負っているわけではない。天使のような翼が生えているわけではない。 あるものと言えば、手に握った傘ひとつ。にもかかわらず、少女の身体はふわふわしていた。 「やっぱり気持ちいいなあ、雨の日の空の旅!」 少女の名は傘松 小雨(かさまつ こさめ)。小学生である。黄色い傘が可愛らしい。 「こんな~雨の日は~ヘリとか~鳥とかもいないし~。雨空は~私だけの~フリ~ワ~ルド!」 傘を差すだけで宙を舞っている。その異常性だけで気づく人は気づくだろうが、彼女は都市伝説契約者である。 彼女の契約都市伝説、それは『傘をパラシュート代わりにできる』。星のカービィなんかでイメージが付いたのだろう。 我々は子供のころ、傘を差して飛び降りるとパラシュートのようにふわふわ舞い降りることができると信じていた。 それが形になった、その『子供たちの夢』から生まれた都市伝説。それが『傘をパラシュート代わりにできる』である。 「地面ならともかく~、こ~んな雨の日に空飛んでる都市伝説なんていないだろうしね~」 言いながら、少女はふわふわ空を舞う。雨音をBGMに、空を舞う。 「あっ、そろそろ地上かぁ。しょうがない、また昇り直……」 その瞬間、びゅん、と何かが飛んでくる。器用に位置を変え、小雨はそれを間一髪躱した。 「なんなの~、も~……」 呟き、地上に足を付ける。何が飛んできたかは分からないけど、危ないじゃない。気を付けてよね―――と、思っていると。 「きゃっ!」 躱したはずの『それ』が戻ってきて。小雨の小さな体を突き飛ばした。 「ひっひっひっ」 飛んできた何かは不気味に笑う。動きを止めたことでその正体が露わになった。老婆だ。 「何~、何なの~?」 「こんな雨の日に出歩くなんて危ないじゃないかい」 「そんなこと~、聞いてないんだけど~?」 「暗くて誰もいない時に一人で出歩くだなんて……私達に襲われたいって言ってるようなもんだよぇ!」 言いながら、老婆は腰を曲げ、小雨めがけて飛びかかる。 「当たらないよ~? 何なのお婆さん?」 しかし、小さな体躯を生かしてすらりと躱す小雨。 「やっぱり子供は子供。甘いねぇ!」 二度も同じ手に引っ掛かるだなんて――――言いながら、老婆は戻ってきた 「んぐっ……!」 クリーンヒット。小さな体に老婆一人分の体重は大ダメージとなり得る。 「何で……羽根もないのに~……。いや~……そっかぁ~」 苦しそうにしながらも立ち上がり、小雨は言う。 「『ブーメラン婆』~! だから避けても避けられなかったんだぁ~~!」 「ひっひっひっ、ご名答。子どもにしちゃ賢いじゃないか」 「どうしてこんなことするのよ~。人が気持ちよ~く飛んでるときに~」 「ひっひっひ、都市伝説(わたしたち)が人を襲うのに……理由が必要かい?」 「あはは~、そりゃそうだ~!」 言いながら、小雨は飛び退き『ブーメラン婆』と距離を取る。 「逃げるつもりかい? 無駄だよ、遠距離(それ)は私の間合いだ!」 『ブーメラン婆』はその名の通り、ブーメランのように回転しながら、小雨めがけて飛んでくる。 「逃げる? ちがうよ~?」 その瞬間、強い風が吹いた。こんな天気だ、風くらい吹くだろう。しかし―――それが何だというのだ? 「戦うつもりかい? でも残念! 私はこの程度の風、物ともせず飛んで行ける!」 一方お前さんの得物は傘じゃないかい。突風の中じゃまともに傘なんか差せない。 どうやら天は私に味方したようだね!言いながら、『ターボ婆』は飛んでくる。 確かにそうだ。この状況、普通なら圧倒的に小雨の不利。 「違うよぉ~? 天運はどうかしらないけど~……天気はいつでも、私の味方なの~」 そう、あくまで普通なら。普通も常識もないのが都市伝説や契約者の戦いだ。 『ターボ婆』の身体は風にあおられ、地面にたたきつけられた。 「ぐえっ……! お前、何をしたんだい!?」 「『何をした』~? おかしなことを聞くんだね~? 貴女は風に吹き飛ばされ落っこちた。それだけでしょ~?」 「そんなわけあるかい! 私が吹き飛ばされるくらいの風なら、お前が吹き飛ばないわけがない! お前、契約者だね!?」 都市伝説の力で風を起こしたんだろう!? と、『ターボ婆』は吠える。 「さぁ~? ど~だろ~ね~?」 間延びした声で、小雨は答える。しかし、質問には答えない。 「なめんじゃあないよっ、ガキめ!」 『ターボ婆』は体勢を立て直し、再び飛びかかろうとする。しかし、それは叶わない。 「全く~、大きな声をあげるものじゃ~ないよ~? お婆さん。血管切れますよ~?」 頭では冷やしたらどうです~? と小雨が言うのと同時に、『ターボ婆』の頭上に滝のような鉄砲水が降り注いだからだ。 「ごぽごぽ! げほっ、げほっ! やっぱり……契約者!」 恐らくは水や風……つまり、嵐を操る能力! 『ターボ婆』は推理する。 「残念だけど~、お婆さんに勝ち目はないよ~?」 「言ってろ!」 と吠えてみるものの、しかしその通りだ。ターボ婆は本来雨の日の都市伝説ではない。 嵐という、最上級の悪天候を操る能力者への対抗法を持ち合わせていない。 しかし―――― 「あれ~~~?」 心なしか、雨足が弱まってきた? いや、気のせいではない。確かだ。なぜなら―――― 「ひっひっひっ、どうやらやっぱり、天は私に味方しているようだねぇ!」 突如雨が上がるばかりか、雨雲も晴れ上がったからだ! これ幸い、と『ターボ婆』は反撃の体勢に入る。 「だ~か~ら~、言ったでしょ~? 天運はともかく、天気はいつでも私の味方だって~」 言いながら少女は『ターボ婆』に傘を向ける。傘に付いた水滴が日光を反射し―――― 「うぎゃああああああああ!」 ビームのように、『ターボ婆』を焼いた。 「何……『嵐を操る能力』じゃあないのかい……?」 「嵐を操る~? そ~んな怖い能力、私が持ってるわけないじゃな~い」 私はただ、天気を味方に付けるだけだよ~? 言いながら、少女は指鳴らそうとする。 が、鳴らない。すっ、となるだけである。 「う~~~~……」 可愛い。 しかしその可愛さと裏腹に、能力はしっかりと働いていて。 天から降り注ぐ光が、『ターボ婆』を焼き尽くした。 「まさか~……私の持ってる傘がただの傘だとでも思ってたのかな~? 答え合わせしてあげるね~。『幽霊傘』。それが私の、もう一つの契約都市伝説だよ~」 その声に答えるように、傘は―――否、『幽霊傘』は目と口を開き、ぺろりと舌を出す。 『幽霊傘』。『唐傘お化け』の類話の妖怪であり、突風の日に人を空へ巻き上げてしまう。 契約によって得た能力は、『天気の影響の超強化』。 即ち風であらゆるものを吹き飛ばし、雨を鉄砲水に変え、日光を熱光線に変える。そんな能力。 「屋外で私に勝負を挑んだのが~、貴女の敗因だよ~? な~んて、聞こえてるわけないか~」 そう呟き、少女は踵を返す。 「あ~あ、晴れちゃった。スカイダイビングはおしまいだね~。しょうがない、帰ろ~」 空はすっかり晴れたけど、小雨は相変わらず傘を差し。長靴で水たまりを踏みながら、ちゃぷちゃぷちゃぷちゃぷ、家に帰るのであった。 続く EXIT
https://w.atwiki.jp/legends/pages/3276.html
【上田明也の探偵倶楽部37~抜けば玉散る氷の刃~】 「サンジェルマン、なんか俺、この前妙な奴らに襲われたんだけど。 いやお前が準備したのは解っているんだけどさ。 なんか俺まずいこと口走っちゃったみたいで……、うん。 俺の玩具にする目的でお前らはあいつに改造されたのだフッハッハー!とか言ったらさ。 そうそう、ごめんね。妙な事言わなきゃもっっと遊べたのに。 多分あいつはお前の命を狙っているから気をつけろよ。 ミスド買って帰るから許せ。」 プツッ 上田明也はサンジェルマンとの話をさっさと切り上げた。 やはりゲームの世界で彼に襲いかかってきたのはサンジェルマンが暇潰しにした実験の犠牲者だったらしい。 彼は都市伝説の力を使うのではなく、都市伝説で手に入れた技術で強化された人間を戦力として使ったのである。 埋め込み型の外骨格だの白い人工血液だの組織製の身体能力強化手術だのバイオテクノロジーだの文系の彼にはチンプンカンプンだが、 そんな彼にもその技術で容量や年齢やセンスに関係なくある程度の強さが手に入るという事が解った。。 まあ確かに強い人間であれば都市伝説の力なくして都市伝説に立ち向かうことが可能なのは既に証明されていることでもある。 契約者をスカウトするよりは、戦力としての効率が良い。 面白おかしいことをしているものだ、と上田明也は思った。 とてもとても下らなくて笑いが止まらない、とも思った。 彼の父が昔彼に教えてくれた事実がある。 強い人間は努力しなくても強いのだ。 弱い人間は何をしても弱いのだ。 それを改めて自覚させる為に弱い人間に力を与えるなんて中々良い趣味じゃないか。 自らを生まれついての強者と決めつけている上田明也は少し屈折した優越感を抱いていた。 だがそれも、少し時間が経つと虚しいだけの気持ちに切り替わっていた。 「あ、そうだ。」 彼はそのことに電話を切ってから気付いてしまう。 「サンジェルマンって戦闘能力有るの?」 上田明也はサンジェルマンがまともに戦闘しているのを見たことがない。 無論戦えないということは無いのだろうが、 この前の男のような俊敏な動きをする敵の相手が彼につとまるのだろうか? 「まああいつだってお偉いさんなんだから護衛の一人や二人はいるよね。」 もし護衛を頼まれても自分はパスだ。 そもそも自分は何かを守るということに向いていないのだから。 それに自分は明日晶の結婚するとか言う国中佐織の兄について調べねばならないのだ。 自分にそう言い聞かせると彼はそそくさと探偵業務に戻っていった。 日常に埋没していった。 「さて、F№の皆様に招集をかけるとしましょうか。 彼はここの場所を知っていますし、IDカードも持っていますから。」 『組織』の中にある古ぼけた図書館にサンジェルマンは座っていた。 そこが一応F№達の部屋と言うことにはなっているのだ。 だが彼等の規律が『徹頭徹尾フリーダム』である以上そこに素直に集まる者はほとんど居ない。 否、まったく居ない。 であるがゆえに 「招集をかけても誰も来ませんね。セキュリティーのホムンクルスまで来ないなんて。」 この状況にはサンジェルマンも苦笑いである。 恐らく全員が№0の命などどうでも良いのだろう。 図書館のドアが開く。 「招集に唯一応じたのが貴方だとは……、皮肉ですねえ。」 開いたドアが一瞬で燃え墜ちる。 古い本に火花が燃え移って焦げ臭い香りが辺りに充満した。 「どうも信用ならないと思っていたが…… 答えろサンジェルマン、俺に施した改造手術の目的を!」 「そんなの、貴方に上田明也を殺して貰う為に頑張って貰う為に決まってるじゃないですか。 私は嘘は吐いてません。 ただ、それが不可能なのを知っていただけです。」 ドアを開いた男の名前は国中佑介。 彼は上田明也によって妹を殺された男だ。 そして上田明也が身辺調査を始めたばかりの男だ。 「何度か貴方をここに連れてきていましたが……。 勝手に此処まで来るとはどういうことでしょう? 他の部署に比べて手薄とはいえ一応セキュリティーのホムン……黒服が居たはずですよ。」 「燃やしたよ。」 愉快そうに言い放つ佑介。 彼の衣服が揺れる度にそこから炎が舞い上がる。 「……いつの間に契約を?」 「組織に置いてあった契約書を奪い取らせて貰った。 お前が信用ならない以上これからは独自に行動する。 お前に、騙された分のお礼をしてからだがな!」 「ああそうか、『振り袖火事』の契約書を持ち出しましたね?」 「お前に戦闘能力が無いらしいことは知っている! まずは此処に残っている人体改造に関する研究のデータを破壊させて貰うぞ!」 「貴方の後続機を作られたら敵わないとでも?」 「違う、俺みたいな被害者をもう出したくないだけだ!」 「…………それは嘘だ。」 強化された身体能力に任せて飛びかかる佑介に対して、 小さな声でサンジェルマンは呟いた。 「来てください、『超古代文明の遺産(オーパーツ)』!」 サンジェルマンの手のひらがくぱぁと二つに割れる。 そしてそこから大量の剣や槍が雪崩の如く祐介に向けて射出される。 当然、それらの一つ一つが最高級の都市伝説だ。 すこしでも当たれば致命傷は免れない。 だがサンジェルマンの手で改造された人間「国中祐介」はその全てを視認して回避した。 「喰らえ!」 都市伝説の隙間を縫って振り袖火事の炎がサンジェルマンを包む。 だが炎の中から現れたサンジェルマンの身体には火傷一つできていなかった。 「危ない危ない……。」 「それもお前の都市伝説か?」 「そうですね、これが無ければ死んでいたかも知れません。 火鼠の皮衣なんて貴重品ですよ? 貴方が眼にすることなんてもう無いんじゃないでしょうか。」 サンジェルマンは何時の間にか闘牛士のような赤いマントを羽織っていた。 どうやらそれが炎を防いでいたらしい。 「ならば、肉弾戦で倒す!」 「良いでしょう、そろそろ実験データが欲しかった。 上田さんにぶつけた少年だけでは不完全でしたからね。」 佑介の右ストレートがサンジェルマンへと伸びる。 直撃を危険だと判断したサンジェルマンは目にもとまらぬ速さで祐介の腕を蹴り上げた。 「――――――――ッ!」 「おや、痛いのですか? まだ戦闘時の痛覚遮断スイッチが不完全だったようだ。 これは次の手術の時に注意しておかないと。」 サンジェルマンの靴のつま先からは銀色に輝くナイフがのぞいている。 普段から仕込んでいるらしい。 「骨の丈夫さは完璧だ。 上田さんの手入れしてくれたナイフがボロボロになっているんだから間違いない。」 「チッ、小癪な!」 「ほらほら、まだまだ行きますよ!」 長い足を使って威力のある蹴りを次々に繰り出すサンジェルマン。 下段、中段、上段、目にもとまらぬ速さのサイドキックが祐介に炸裂する。 蹴りの勢いで吹き飛ばされた彼は本棚に激突した。 「くそっ、思ったよりも強い……! 組織の施設の中であれば全力で戦えないと踏んでいたのに!」 「ゼロナンバーは全力で戦えば周囲の施設を巻き込んでしまう程度には 強力な戦闘能力を持っています。 でも、だからといって屋内で戦えないことにはならない。 都市伝説も鍛錬で強くなれるんですよ。」 「そうか……、だがお前が純粋な肉体の性能で俺に勝っているとは思えないな。」 祐介は近くに置いてあった机を投げつける。 それを槍型の都市伝説を射出して撃ち落としたサンジェルマンに一瞬の隙がで来た。 「貰った!」 その踏み込みだけで床が震える。 全身の力を込めた裏拳がサンジェルマンに撃ち込まれた。 彼は辛うじてそれを受け止めたが、骨の折れる音がその体内に響く。 「くっ……!」 「確かにお前はそこそこ戦えるみたいだが、それでも人間止まりだよ。 肝心の高レベル都市伝説群も武器として使いこなせていないじゃないか。 さて、お前とお前の研究をたたきつぶしてさっさと此処を離れさせて貰おう!」 「それはさせません!」 無駄だと知りながらもサンジェルマンは再び都市伝説の射出を開始する。 当たりさえすれば肉を消滅し骨を粉砕せしむる圧倒的火力なのだが、 いかんせん当たると言うことがない。 これが上田明也であれば射出と同時に自らも突っ込み相手の動きを止めることができるのだが、 生粋の戦士たり得ないサンジェルマンはそのようなリスクのある行動が出来なかった。 「燃やし尽くせ振り袖火事!」 「くそ……、打ち据えろアグネァアァ!」 刹那、サンジェルマンの背後の空間が二つに裂ける。 そこから目にもとまらぬ速さで純白の槍が飛びだしてきた。 それは一瞬で祐介の身体を貫くと彼を壁に叩き付けて消滅した。 だが驚嘆するべきはその後起きた出来事だ。 とんでもない熱が辺りに広がったかと思うと祐介が叩き付けられた石壁がガラスのように変化してしまったのだ。 そしてその熱と袖振り火事の炎で図書館の本は次々に燃えていく。 その火がとある本棚に回った瞬間、彼は血相を変えた。 「お、どうした?そこに大事な本でもあるのか?」 「くそっ、貴様如きが私の研究を壊す? 巫山戯るな、私の神聖な研究を! 私の私による、世界と己が才能に苦悩する天才達とそして私の愛する人の為の研究を! 彼等と私の深遠なる城に、貴様のようなワラの家が入り込むんじゃあない! まだ壊す気なのか?まだ“俺”の研究を壊そうというなら容赦はしない! 行儀良くお前の喧嘩に付き合ってやっていたがそれももうお了いだ! 殺す、おまえなんざぼろ切れのようにぶち殺してやる! モルモット如きが!自爆装置でも付けておいてやれば良かった!」 「やっと、本性を現しやがったか。」 腹に巨大な穴を開けながらも国中祐介は立ち上がる。 彼はこれ以上の戦闘の継続を不可能だと判断して逃避を選択した。 「逃がさんぞモルモット!お前だけは許さん!」 次の瞬間、彼等の存在する空間が歪みねじれた。 「……ここは、日本庭園?」 国中祐介は自らの目を疑った。 自分はさっきまでかび臭そうな図書館にいたのに いつの間にやら日本庭園のど真ん中に立っているのだ。 「何が有ったんだぁ? って、サンジェルマンじゃねえか。 相当切れちまってるなあ、女がらみか? それとも……男? 無理矢理は良くないぜ?」 どこからか陽気な声が響く。 それはそれは生きていることが楽しくて仕方なさそうなテノールの音色。 「すいませんね、明久。すこしお願いが有ってきました。 貴方の息子さんを仇として狙っている男が其処にいるのですが、 私の図書館に火を付けていってですね。 火を消すまでに少し相手していて欲しいんですよ。」 声の主は日本庭園の池で鯉に餌をやる、腰に刀を差した男性。 上田明久である。 「それなら明也に戦わせてやれよ。 あいつだってガキじゃないんだからさ。 あいつのやったことの責任なんて俺はもう取っちゃいけないよ。」 「駄目です、あいつ足が速いんで私も明也さんも逃がしてしまいます。 私が帰ってくるまでで良いんです! 殺しておいても構いません!」 「無茶な事言うなあ……。」 「くっ、今の内に逃げておくか……?」 戦いを渋る明久。 国中佑介はもう状況を把握して逃げだそうとしている。 そこでサンジェルマンはアプローチを変えた。 「貴方の身体から得たデータを元に作ったホムンクルスですよ? 貴方も戦ってみたくはありませんか?」 「それを早く言えよ!」 子供のように明久ははしゃぐ。 それを確認するとサンジェルマンは次元を歪めて図書館にワープした。 「おい、そこのガキ! 俺はお前の仇とやらの父親なんだがどうする? できるなら殺してみろよ、そしたら明也の奴は多分悲しむと思うけどなあ?」 明久の言葉を聞く前から国中佑介は背を見せて逃走を始めていた。 自分の言葉が無視されて少しばかりむっとなる明久。 「おい、話くらい聞いていけよ。」 次の瞬間には、上田明久は国中佑介の肩を掴んでいた。 「いつの間にここまで近づかれた!?」 「うっせーな、お前の足が遅いんだろうがよ。 これじゃあ鬼ごっこにもなりやしねえ。」 明久の手を振り払うように佑介は明久に殴りかかった。 岩を砕き、鉄に穴を開ける拳、当然人間が喰らえばひとたまりもない。 だが、それはいとも容易く手のひらで止められた。 「体の使い方がなっちゃいねえ。 腰を使え腰!」 止めた拳を掴んだまま振り回して明久は祐介を地面に叩き付けた。 そしてそのまま日本刀を抜いて彼にトドメを刺そうとする。 だが間一髪祐介はそれを躱して明久を距離を取った。 「都市伝説……か?」 「馬鹿野郎、この程度鍛えれば誰でもできるわ! 俺の都市伝説はこの『村雨』だけだ!」 上田明久は腰に下げた刀を自慢げに振り回す。 「ほら、俺を元に作られたホムンクルスなんだろ? もっと骨の有るところ見せてみろよ!」 「くそっ、化け物め……!」 振り袖火事の炎を全身に纏い、国中佑介は上田明久をにらみつけた。 その目を見て始めて、上田明久は満足げに口元をゆるめる。 そして彼の息子がするように鷹のような鋭い目つきをみせた。 上田明久は生まれつき人間離れしたレベルで身体が丈夫だった。 そしてそこそこに勉強も出来た。 そんな彼には人生の全てが退屈だった。 彼の周りには彼ほど肉体・頭脳の両面で優秀な人間は居なかったのだ。 退屈を持てあまし、自分と同格と思える人間の居ない孤独に疲れた彼は、 何時しかこの夜の全ての享楽を味わってみようと思うに至っていた。 そうすれば彼自身の渇きや孤独が癒えると思ったのだ。 そんなときに彼はサンジェルマンと出会った。 彼は明久の才能に興味を持ち、彼の才能を伸ばす手助けをしてくれた。 だがサンジェルマンと世界を巡るうちに上田明久は気付いた。 世の中には自分より異常で異様でしかも優秀な人間が居る。 なんだ、自分は凡人ではないか。 そう思った時、彼は彼の周りの人間が愛おしくなった。 そして彼は自らを研鑽することを止めて、愛する人の為に生きようと決めた。 こうして生まれたのが上田明也とその弟だった。 「くっくっく、久しぶりの闘争だ。 久しぶりの競争だ。 何年ぶりだろうな、俺と戦える奴なんて!」 国中佑介は確信した。 確かに彼が知る上田明也程ではないがその父たるこの男もまた異常なのだと。 「殺し合いするのにあんな満ち足りた顔をした人間が居てたまるかよ……。」 「殺し合いは楽しいぞぉ、どんな人間でも同じ地平に立てる。 死の前では全てが等価だ!」 そう叫ぶと上田明久は国中祐介の懐に踏み込んで刀を抜いた。 「振り袖……」 ストォン 「無い袖は振れないよなあ!」 国中佑介の左腕の肘から先が胴体から離れて宙を舞った。 しかし彼に近づきすぎた明久の身体も炎に包まれた。 「村雨ェ!」 その瞬間、彼の差していた刀の鞘から大量の水が噴き出す。 明久はそれで自らのみを包む炎を消してしまった。 「なんだ、サンジェルマンのホムンクルスだから期待していたのに……。 たいしたこと無いじゃないか。」 「くそっ、調子に乗るなよ……!」 佑介は吹き飛ばされた腕を回収すると無理矢理それを切断面に接ぎ直す。 「ほう、昔の奴より再生力はあがってるみたいだな。 腹の傷もふさがり始めているし……、ハーメルンの笛吹きの研究データでも使ったか?」 気付けば攻防の主導権は上田明久のものとなっていた。 抜けば玉散る氷の刃。 抜けば霊散る氷の刃。 明久の繰り出す村雨は反撃の隙さえ与えずに祐介の肉体を切り刻む。 格別に速いという訳ではない。 格別に重いという訳ではない。 ただ当たり前に刀は繰り出され、血が噴き出す。 人工的に作られたホムンクルス独特の白い血が辺りを染める。 「おらおらおらおらおらおら! もっと頑張って、魅せろ!」 「畜生、こんなところで死ぬ訳には……!」 しかし、彼の祈りは届かない。 そこで奇跡を起こせないのが彼の限界なのだ。 「なんだ、奇跡の一つも起こせないのか? 追い詰められたら『その時不思議なことが起こった』とかナレーション入って逆転勝利だろうがよ! ったくこれだからホムンクルスは駄目なんだ!」 上田明久は一度刀を鞘に収める。 そして少し距離を取った後一気にそれを抜きはなった。 居合抜きの一閃、それは間違いなく国中佑介の胴を捉える。 佑介の胴から吹き出す白い血と内蔵を見た明久はすでに彼への興味を失っていた。 「……飽きた。」 自らの明らかな勝利を確信した上田明久は刀を納める。 彼の瞳はもう国中佑介を見ていない。 「ほら、帰れ。死にたくなければ帰れ。」 「……何言っているんだ!?」 「いやだからさ、お前と戦うの飽きた。 その内蔵仕舞ってさっさ帰って寝ろ。 どうせホムンクルスなんだから治るだろう? で、あとは俺の息子と戦うなりなんなり好きにしろ。」 「そう言って後ろからだまし討ちにするつもりなんだろ!」 「だって、それ必要ないくらい弱いじゃんお前。」 「――――――――――!」 その時突然空間が歪み始める。 どうやらサンジェルマンが帰ってくるらしい。 「ほら、あいつが帰ってくるぞ?」 「く、くそっ!」 国中佑介は脇目もふらず逃げ出した。 「……あいつを逃がしましたね明久さん。」 「だってあいつ弱いんだもん。 せめて俺の息子倒してくるか、俺の息子が強くなる為の餌にするかしないと。 今殺しちゃったらたのしくねえ。」 「戦いを楽しみにするのはやめたんじゃないんですか?」 「うるせえ、やっぱありゃ撤回だ。 戦闘最高戦争最高、世界には俺を楽しませる戦場がまだありました。 これで良いだろう?」 「むぅーん……。」 「闘争は即ち理解し合うことだ。 理解し合うことは即ち愛し合うことだ。 愛し合うことは即ち平和への第一歩だ。 闘争とは全ての存在を平等にして世界を救う為の第一歩なのだよ。 最近は闘争の根幹を理解しない連中が多くて困る。 打ち倒せど辱めず、圧倒すれど侮らず、それでこそ闘争なのだよ。 もっと自分が剣を向ける相手に敬意を抱け我が友よ。 それが出来ないと何時か取り返しがつかなくなるぞ。」 「いやぁ……訳がわかりません。」 「それは残念だ。ああそうだ、ミスド喰う? 葵が丁度買ってきていた所なんだよ。」 「フレンチクルーラーが有るなら良いでしょう。」 「良い返事だ。オールドファッションしかない!」 豪快に笑ってサンジェルマンの肩をたたくと上田明久は妻の名前を呼んだ。 どうやら外で喰おうということらしい。 どこまでも理解の外にいる友人だが、傍に居て居心地が良い。 サンジェルマンは先ほどまでの自分の怒りがゆっくりと薄れていくのを感じていた。 【上田明也の探偵倶楽部37~抜けば玉散る氷の刃~fin】
https://w.atwiki.jp/legends/pages/3050.html
【上田明也の探偵倶楽部37~抜けば玉散る氷の刃~】 「サンジェルマン、なんか俺、この前妙な奴らに襲われたんだけど。 いやお前が準備したのは解っているんだけどさ。 なんか俺まずいこと口走っちゃったみたいで……、うん。 俺の玩具にする目的でお前らはあいつに改造されたのだフッハッハー!とか言ったらさ。 そうそう、ごめんね。妙な事言わなきゃもっっと遊べたのに。 多分あいつはお前の命を狙っているから気をつけろよ。 ミスド買って帰るから許せ。」 プツッ 上田明也はサンジェルマンとの話をさっさと切り上げた。 やはりゲームの世界で彼に襲いかかってきたのはサンジェルマンが暇潰しにした実験の犠牲者だったらしい。 彼は都市伝説の力を使うのではなく、都市伝説で手に入れた技術で強化された人間を戦力として使ったのである。 埋め込み型の外骨格だの白い人工血液だの組織製の身体能力強化手術だのバイオテクノロジーだの文系の彼にはチンプンカンプンだが、 そんな彼にもその技術で容量や年齢やセンスに関係なくある程度の強さが手に入るという事が解った。。 まあ確かに強い人間であれば都市伝説の力なくして都市伝説に立ち向かうことが可能なのは既に証明されていることでもある。 契約者をスカウトするよりは、戦力としての効率が良い。 面白おかしいことをしているものだ、と上田明也は思った。 とてもとても下らなくて笑いが止まらない、とも思った。 彼の父が昔彼に教えてくれた事実がある。 強い人間は努力しなくても強いのだ。 弱い人間は何をしても弱いのだ。 それを改めて自覚させる為に弱い人間に力を与えるなんて中々良い趣味じゃないか。 自らを生まれついての強者と決めつけている上田明也は少し屈折した優越感を抱いていた。 だがそれも、少し時間が経つと虚しいだけの気持ちに切り替わっていた。 「あ、そうだ。」 彼はそのことに電話を切ってから気付いてしまう。 「サンジェルマンって戦闘能力有るの?」 上田明也はサンジェルマンがまともに戦闘しているのを見たことがない。 無論戦えないということは無いのだろうが、 この前の男のような俊敏な動きをする敵の相手が彼につとまるのだろうか? 「まああいつだってお偉いさんなんだから護衛の一人や二人はいるよね。」 もし護衛を頼まれても自分はパスだ。 そもそも自分は何かを守るということに向いていないのだから。 それに自分は明日晶の結婚するとか言う国中佐織の兄について調べねばならないのだ。 自分にそう言い聞かせると彼はそそくさと探偵業務に戻っていった。 日常に埋没していった。 「さて、F№の皆様に招集をかけるとしましょうか。 彼はここの場所を知っていますし、IDカードも持っていますから。」 『組織』の中にある古ぼけた図書館にサンジェルマンは座っていた。 そこが一応F№達の部屋と言うことにはなっているのだ。 だが彼等の規律が『徹頭徹尾フリーダム』である以上そこに素直に集まる者はほとんど居ない。 否、まったく居ない。 であるがゆえに 「招集をかけても誰も来ませんね。セキュリティーのホムンクルスまで来ないなんて。」 この状況にはサンジェルマンも苦笑いである。 恐らく全員が№0の命などどうでも良いのだろう。 図書館のドアが開く。 「招集に唯一応じたのが貴方だとは……、皮肉ですねえ。」 開いたドアが一瞬で燃え墜ちる。 古い本に火花が燃え移って焦げ臭い香りが辺りに充満した。 「どうも信用ならないと思っていたが…… 答えろサンジェルマン、俺に施した改造手術の目的を!」 「そんなの、貴方に上田明也を殺して貰う為に頑張って貰う為に決まってるじゃないですか。 私は嘘は吐いてません。 ただ、それが不可能なのを知っていただけです。」 ドアを開いた男の名前は国中佑介。 彼は上田明也によって妹を殺された男だ。 そして上田明也が身辺調査を始めたばかりの男だ。 「何度か貴方をここに連れてきていましたが……。 勝手に此処まで来るとはどういうことでしょう? 他の部署に比べて手薄とはいえ一応セキュリティーのホムン……黒服が居たはずですよ。」 「燃やしたよ。」 愉快そうに言い放つ佑介。 彼の衣服が揺れる度にそこから炎が舞い上がる。 「……いつの間に契約を?」 「組織に置いてあった契約書を奪い取らせて貰った。 お前が信用ならない以上これからは独自に行動する。 お前に、騙された分のお礼をしてからだがな!」 「ああそうか、『振り袖火事』の契約書を持ち出しましたね?」 「お前に戦闘能力が無いらしいことは知っている! まずは此処に残っている人体改造に関する研究のデータを破壊させて貰うぞ!」 「貴方の後続機を作られたら敵わないとでも?」 「違う、俺みたいな被害者をもう出したくないだけだ!」 「…………それは嘘だ。」 強化された身体能力に任せて飛びかかる佑介に対して、 小さな声でサンジェルマンは呟いた。 「来てください、『超古代文明の遺産(オーパーツ)』!」 サンジェルマンの手のひらがくぱぁと二つに割れる。 そしてそこから大量の剣や槍が雪崩の如く祐介に向けて射出される。 当然、それらの一つ一つが最高級の都市伝説だ。 すこしでも当たれば致命傷は免れない。 だがサンジェルマンの手で改造された人間「国中祐介」はその全てを視認して回避した。 「喰らえ!」 都市伝説の隙間を縫って振り袖火事の炎がサンジェルマンを包む。 だが炎の中から現れたサンジェルマンの身体には火傷一つできていなかった。 「危ない危ない……。」 「それもお前の都市伝説か?」 「そうですね、これが無ければ死んでいたかも知れません。 火鼠の皮衣なんて貴重品ですよ? 貴方が眼にすることなんてもう無いんじゃないでしょうか。」 サンジェルマンは何時の間にか闘牛士のような赤いマントを羽織っていた。 どうやらそれが炎を防いでいたらしい。 「ならば、肉弾戦で倒す!」 「良いでしょう、そろそろ実験データが欲しかった。 上田さんにぶつけた少年だけでは不完全でしたからね。」 佑介の右ストレートがサンジェルマンへと伸びる。 直撃を危険だと判断したサンジェルマンは目にもとまらぬ速さで祐介の腕を蹴り上げた。 「――――――――ッ!」 「おや、痛いのですか? まだ戦闘時の痛覚遮断スイッチが不完全だったようだ。 これは次の手術の時に注意しておかないと。」 サンジェルマンの靴のつま先からは銀色に輝くナイフがのぞいている。 普段から仕込んでいるらしい。 「骨の丈夫さは完璧だ。 上田さんの手入れしてくれたナイフがボロボロになっているんだから間違いない。」 「チッ、小癪な!」 「ほらほら、まだまだ行きますよ!」 長い足を使って威力のある蹴りを次々に繰り出すサンジェルマン。 下段、中段、上段、目にもとまらぬ速さのサイドキックが祐介に炸裂する。 蹴りの勢いで吹き飛ばされた彼は本棚に激突した。 「くそっ、思ったよりも強い……! 組織の施設の中であれば全力で戦えないと踏んでいたのに!」 「ゼロナンバーは全力で戦えば周囲の施設を巻き込んでしまう程度には 強力な戦闘能力を持っています。 でも、だからといって屋内で戦えないことにはならない。 都市伝説も鍛錬で強くなれるんですよ。」 「そうか……、だがお前が純粋な肉体の性能で俺に勝っているとは思えないな。」 祐介は近くに置いてあった机を投げつける。 それを槍型の都市伝説を射出して撃ち落としたサンジェルマンに一瞬の隙がで来た。 「貰った!」 その踏み込みだけで床が震える。 全身の力を込めた裏拳がサンジェルマンに撃ち込まれた。 彼は辛うじてそれを受け止めたが、骨の折れる音がその体内に響く。 「くっ……!」 「確かにお前はそこそこ戦えるみたいだが、それでも人間止まりだよ。 肝心の高レベル都市伝説群も武器として使いこなせていないじゃないか。 さて、お前とお前の研究をたたきつぶしてさっさと此処を離れさせて貰おう!」 「それはさせません!」 無駄だと知りながらもサンジェルマンは再び都市伝説の射出を開始する。 当たりさえすれば肉を消滅し骨を粉砕せしむる圧倒的火力なのだが、 いかんせん当たると言うことがない。 これが上田明也であれば射出と同時に自らも突っ込み相手の動きを止めることができるのだが、 生粋の戦士たり得ないサンジェルマンはそのようなリスクのある行動が出来なかった。 「燃やし尽くせ振り袖火事!」 「くそ……、打ち据えろアグネァアァ!」 刹那、サンジェルマンの背後の空間が二つに裂ける。 そこから目にもとまらぬ速さで純白の槍が飛びだしてきた。 それは一瞬で祐介の身体を貫くと彼を壁に叩き付けて消滅した。 だが驚嘆するべきはその後起きた出来事だ。 とんでもない熱が辺りに広がったかと思うと祐介が叩き付けられた石壁がガラスのように変化してしまったのだ。 そしてその熱と袖振り火事の炎で図書館の本は次々に燃えていく。 その火がとある本棚に回った瞬間、彼は血相を変えた。 「お、どうした?そこに大事な本でもあるのか?」 「くそっ、貴様如きが私の研究を壊す? 巫山戯るな、私の神聖な研究を! 私の私による、世界と己が才能に苦悩する天才達とそして私の愛する人の為の研究を! 彼等と私の深遠なる城に、貴様のようなワラの家が入り込むんじゃあない! まだ壊す気なのか?まだ“俺”の研究を壊そうというなら容赦はしない! 行儀良くお前の喧嘩に付き合ってやっていたがそれももうお了いだ! 殺す、おまえなんざぼろ切れのようにぶち殺してやる! モルモット如きが!自爆装置でも付けておいてやれば良かった!」 「やっと、本性を現しやがったか。」 腹に巨大な穴を開けながらも国中祐介は立ち上がる。 彼はこれ以上の戦闘の継続を不可能だと判断して逃避を選択した。 「逃がさんぞモルモット!お前だけは許さん!」 次の瞬間、彼等の存在する空間が歪みねじれた。 「……ここは、日本庭園?」 国中祐介は自らの目を疑った。 自分はさっきまでかび臭そうな図書館にいたのに いつの間にやら日本庭園のど真ん中に立っているのだ。 「何が有ったんだぁ? って、サンジェルマンじゃねえか。 相当切れちまってるなあ、女がらみか? それとも……男? 無理矢理は良くないぜ?」 どこからか陽気な声が響く。 それはそれは生きていることが楽しくて仕方なさそうなテノールの音色。 「すいませんね、明久。すこしお願いが有ってきました。 貴方の息子さんを仇として狙っている男が其処にいるのですが、 私の図書館に火を付けていってですね。 火を消すまでに少し相手していて欲しいんですよ。」 声の主は日本庭園の池で鯉に餌をやる、腰に刀を差した男性。 上田明久である。 「それなら明也に戦わせてやれよ。 あいつだってガキじゃないんだからさ。 あいつのやったことの責任なんて俺はもう取っちゃいけないよ。」 「駄目です、あいつ足が速いんで私も明也さんも逃がしてしまいます。 私が帰ってくるまでで良いんです! 殺しておいても構いません!」 「無茶な事言うなあ……。」 「くっ、今の内に逃げておくか……?」 戦いを渋る明久。 国中佑介はもう状況を把握して逃げだそうとしている。 そこでサンジェルマンはアプローチを変えた。 「貴方の身体から得たデータを元に作ったホムンクルスですよ? 貴方も戦ってみたくはありませんか?」 「それを早く言えよ!」 子供のように明久ははしゃぐ。 それを確認するとサンジェルマンは次元を歪めて図書館にワープした。 「おい、そこのガキ! 俺はお前の仇とやらの父親なんだがどうする? できるなら殺してみろよ、そしたら明也の奴は多分悲しむと思うけどなあ?」 明久の言葉を聞く前から国中佑介は背を見せて逃走を始めていた。 自分の言葉が無視されて少しばかりむっとなる明久。 「おい、話くらい聞いていけよ。」 次の瞬間には、上田明久は国中佑介の肩を掴んでいた。 「いつの間にここまで近づかれた!?」 「うっせーな、お前の足が遅いんだろうがよ。 これじゃあ鬼ごっこにもなりやしねえ。」 明久の手を振り払うように佑介は明久に殴りかかった。 岩を砕き、鉄に穴を開ける拳、当然人間が喰らえばひとたまりもない。 だが、それはいとも容易く手のひらで止められた。 「体の使い方がなっちゃいねえ。 腰を使え腰!」 止めた拳を掴んだまま振り回して明久は祐介を地面に叩き付けた。 そしてそのまま日本刀を抜いて彼にトドメを刺そうとする。 だが間一髪祐介はそれを躱して明久を距離を取った。 「都市伝説……か?」 「馬鹿野郎、この程度鍛えれば誰でもできるわ! 俺の都市伝説はこの『村雨』だけだ!」 上田明久は腰に下げた刀を自慢げに振り回す。 「ほら、俺を元に作られたホムンクルスなんだろ? もっと骨の有るところ見せてみろよ!」 「くそっ、化け物め……!」 振り袖火事の炎を全身に纏い、国中佑介は上田明久をにらみつけた。 その目を見て始めて、上田明久は満足げに口元をゆるめる。 そして彼の息子がするように鷹のような鋭い目つきをみせた。 上田明久は生まれつき人間離れしたレベルで身体が丈夫だった。 そしてそこそこに勉強も出来た。 そんな彼には人生の全てが退屈だった。 彼の周りには彼ほど肉体・頭脳の両面で優秀な人間は居なかったのだ。 退屈を持てあまし、自分と同格と思える人間の居ない孤独に疲れた彼は、 何時しかこの夜の全ての享楽を味わってみようと思うに至っていた。 そうすれば彼自身の渇きや孤独が癒えると思ったのだ。 そんなときに彼はサンジェルマンと出会った。 彼は明久の才能に興味を持ち、彼の才能を伸ばす手助けをしてくれた。 だがサンジェルマンと世界を巡るうちに上田明久は気付いた。 世の中には自分より異常で異様でしかも優秀な人間が居る。 なんだ、自分は凡人ではないか。 そう思った時、彼は彼の周りの人間が愛おしくなった。 そして彼は自らを研鑽することを止めて、愛する人の為に生きようと決めた。 こうして生まれたのが上田明也とその弟だった。 「くっくっく、久しぶりの闘争だ。 久しぶりの競争だ。 何年ぶりだろうな、俺と戦える奴なんて!」 国中佑介は確信した。 確かに彼が知る上田明也程ではないがその父たるこの男もまた異常なのだと。 「殺し合いするのにあんな満ち足りた顔をした人間が居てたまるかよ……。」 「殺し合いは楽しいぞぉ、どんな人間でも同じ地平に立てる。 死の前では全てが等価だ!」 そう叫ぶと上田明久は国中祐介の懐に踏み込んで刀を抜いた。 「振り袖……」 ストォン 「無い袖は振れないよなあ!」 国中佑介の左腕の肘から先が胴体から離れて宙を舞った。 しかし彼に近づきすぎた明久の身体も炎に包まれた。 「村雨ェ!」 その瞬間、彼の差していた刀の鞘から大量の水が噴き出す。 明久はそれで自らのみを包む炎を消してしまった。 「なんだ、サンジェルマンのホムンクルスだから期待していたのに……。 たいしたこと無いじゃないか。」 「くそっ、調子に乗るなよ……!」 佑介は吹き飛ばされた腕を回収すると無理矢理それを切断面に接ぎ直す。 「ほう、昔の奴より再生力はあがってるみたいだな。 腹の傷もふさがり始めているし……、ハーメルンの笛吹きの研究データでも使ったか?」 気付けば攻防の主導権は上田明久のものとなっていた。 抜けば玉散る氷の刃。 抜けば霊散る氷の刃。 明久の繰り出す村雨は反撃の隙さえ与えずに祐介の肉体を切り刻む。 格別に速いという訳ではない。 格別に重いという訳ではない。 ただ当たり前に刀は繰り出され、血が噴き出す。 人工的に作られたホムンクルス独特の白い血が辺りを染める。 「おらおらおらおらおらおら! もっと頑張って、魅せろ!」 「畜生、こんなところで死ぬ訳には……!」 しかし、彼の祈りは届かない。 そこで奇跡を起こせないのが彼の限界なのだ。 「なんだ、奇跡の一つも起こせないのか? 追い詰められたら『その時不思議なことが起こった』とかナレーション入って逆転勝利だろうがよ! ったくこれだからホムンクルスは駄目なんだ!」 上田明久は一度刀を鞘に収める。 そして少し距離を取った後一気にそれを抜きはなった。 居合抜きの一閃、それは間違いなく国中佑介の胴を捉える。 佑介の胴から吹き出す白い血と内蔵を見た明久はすでに彼への興味を失っていた。 「……飽きた。」 自らの明らかな勝利を確信した上田明久は刀を納める。 彼の瞳はもう国中佑介を見ていない。 「ほら、帰れ。死にたくなければ帰れ。」 「……何言っているんだ!?」 「いやだからさ、お前と戦うの飽きた。 その内蔵仕舞ってさっさ帰って寝ろ。 どうせホムンクルスなんだから治るだろう? で、あとは俺の息子と戦うなりなんなり好きにしろ。」 「そう言って後ろからだまし討ちにするつもりなんだろ!」 「だって、それ必要ないくらい弱いじゃんお前。」 「――――――――――!」 その時突然空間が歪み始める。 どうやらサンジェルマンが帰ってくるらしい。 「ほら、あいつが帰ってくるぞ?」 「く、くそっ!」 国中佑介は脇目もふらず逃げ出した。 「……あいつを逃がしましたね明久さん。」 「だってあいつ弱いんだもん。 せめて俺の息子倒してくるか、俺の息子が強くなる為の餌にするかしないと。 今殺しちゃったらたのしくねえ。」 「戦いを楽しみにするのはやめたんじゃないんですか?」 「うるせえ、やっぱありゃ撤回だ。 戦闘最高戦争最高、世界には俺を楽しませる戦場がまだありました。 これで良いだろう?」 「むぅーん……。」 「闘争は即ち理解し合うことだ。 理解し合うことは即ち愛し合うことだ。 愛し合うことは即ち平和への第一歩だ。 闘争とは全ての存在を平等にして世界を救う為の第一歩なのだよ。 最近は闘争の根幹を理解しない連中が多くて困る。 打ち倒せど辱めず、圧倒すれど侮らず、それでこそ闘争なのだよ。 もっと自分が剣を向ける相手に敬意を抱け我が友よ。 それが出来ないと何時か取り返しがつかなくなるぞ。」 「いやぁ……訳がわかりません。」 「それは残念だ。ああそうだ、ミスド喰う? 葵が丁度買ってきていた所なんだよ。」 「フレンチクルーラーが有るなら良いでしょう。」 「良い返事だ。オールドファッションしかない!」 豪快に笑ってサンジェルマンの肩をたたくと上田明久は妻の名前を呼んだ。 どうやら外で喰おうということらしい。 どこまでも理解の外にいる友人だが、傍に居て居心地が良い。 サンジェルマンは先ほどまでの自分の怒りがゆっくりと薄れていくのを感じていた。 【上田明也の探偵倶楽部37~抜けば玉散る氷の刃~fin】
https://w.atwiki.jp/legends/pages/2583.html
「世話になったねぇ」 マドカが舞とTさんの住いに泊まった翌朝、そう言ってマドカは笑った 玄関先に立ち、早速タバコを取り出そうとしている …どうやら、家の中ではタバコを遠慮してくれていたらしい 「姐ちゃん、これからどうするんだ?」 「どうするのー?」 舞とリカちゃんの問いかけに、マドカはそうさねぇ、と笑う 「翼の事も心配だけど……その前に、バカ亭主がやらかしている事を止める方が、先みたいだからねぇ?」 「相手の能力に不明な点が多い。無理はしない方がいい」 「なぁに、あたしだって都市伝説契約者さ。そう簡単にやられたりしないよ」 Tさんの言葉に、カラカラとそう答えてきたマドカ ようやくタバコを取り出し、火をつけようとしている 「…そう言えば、姉ちゃんの契約都市伝説って、何なんだ?」 「ん?……あぁ、そう言えば、話していなかったねぇ?」 舞の言葉に、タバコに火をつけようとしていた手を止めて ニヤリ笑って、マドカは続ける 「そうさね…泊めてもらった恩だ。見せてあげるよ、あたしの契約都市伝説の力」 マドカがそう言った、次の瞬間 辺りが、強い光に包み込まれた 「へ?」 きょとん、としている舞 光が消えた、その時……マドカの手に、持っていたはずのタバコが、消えていた 「あれー??」 リカちゃんも、首をかしげる 光で視界が遮られたのは、ほんの一瞬 マドカが、身に纏っている服のどこかにタバコを隠す事は不可能 足元に落とした、という訳でもない……彼女の足元に、タバコは落ちていない 火がついていなかったあのタバコは、どこに消えた? 「……なるほど」 「え?Tさん、わかったのか?」 「恐らく、だが」 …………………………ではないか?と 尋ねたTさんに、マドカは笑った 「---ビンゴ。よくわかったねぇ?」 「まぁ、タバコがどこに消えたのか、から予測したまでだが」 からから笑いながら、マドカは新たなタバコをとりだした 火をつけ、咥える 「生物、無生物問わず、ほぼ問答無用で発動できるよ。まぁ、それしかできないんだがね」 「充分、強力だろう」 問答無用で発動すると言う事は、問答無用で相手を無力化できる能力なのだ、マドカの契約都市伝説は むしろ……そのまま、相手を殺す事も可能な力 なるほど確かに、自分の身を護る事は可能だ 油断さえ、しなければ 「何かわかったら、伝えてくれるかい?」 「了解した。そちらも、何かわかったらすぐに伝えてもらえるとありがたい」 「あぁ、任せとくれ」 それじゃあ、と 舞達に別れを告げて、立ち去るマドカ …彼女が立っていた場所から、ほとんど離れていない位置の壁から まるで、そこを作る際に埋め込まれていたかのように……タバコのフィルターが、ほんの少し、はみ出ていた事に その時、舞ははじめて気づいたのだった to be … ? Tさん「コーク・ロア:思案の朝」へ 前ページ次ページ連載 - 悪意が嘲う
https://w.atwiki.jp/legends/pages/4603.html
一人の少女が寂れた路地を走っていた。 『君が悪い都市伝説や契約者を殺していけば、その分君の両親が都市伝説絡みの事件や事故に巻き込まれる確率は減る。そんなにも両親を大事に思っているなら…出来るだろう?ただ、僕達の言う事を聞いていればいい。 大丈夫、回数を重ねて行けば殺しのコツも掴めてくるよ』 窓が無く、マットレスがむき出しになったベットが一つ。 数日前、牢獄のような簡素な部屋の分厚い扉越しに、知らない声にそう告げられた。 人を、都市伝説を殺すのは、怖い。 けれど、自分が躊躇ったせいで両親が死ぬのはもっと怖い。 役に立たないからと捨てられるのは、居場所を失うのはもっともっと怖かった。 前方に、標的が見えた。 瞬間、左腕が変質した。 衣服の腕の部分が内側から食い破られるように裂かれ、皮膚や、内側の筋や骨が丸ごと金属に変わったかのように、肩から先が自動小銃に変わっていた。 少女――蛍が新しく契約した都市伝説の内の一つ、『摘発を免れた某教団の自動小銃が残っている』 角を曲がろうとした標的を、鉛玉が打ち抜いた。 ――― 小学生くらいの少年が、寂れた路地を歩いていた。 この道はあまり好きではなかったけれど、家から学校までの近道だった。 後三つ角を曲がれば、路地を抜けられるという時、銃声が聞こえた。 「………っ!」 突然の銃声に、びくりと身体をすくませる。 どうやら、一つ先の角から聞こえてきたらしい。 何かあったのだろうか――好奇心が勝り、そろそろと足を進めて行く。 奇妙な生き物が、全身を穴だらけにして倒れていた。それを、誰かが屈んで見下ろしている。 しばらくして、奇妙な生き物は光の粒になって消えて行った。 今見たものが信じられなかった。 感想を挙げるなら、『何、今の??』と言ったところだ。 視線を感じた。 奇妙な生き物を屈みこんで見下ろしていた者が、こちらを見つめていた。 例えるなら、人間のなりそこない。 本来、左腕がある所が銃器に変わっていた。 左目は、ぎょろぎょろと絶え間なく不気味に視線を彷徨わせている。 ――次は、僕の番? ――あのお化けみたいに穴だらけにされて死ぬの? 「う……ぁ……! うわあああああああああああ!!化け物っ!来るな!来るなぁ!!」 足元に、石ころが転がっているのが見えた。 とっさに投げた石が当たり、そいつがひるんだ隙に逃げだした。 ――― 少年の姿が見えなくなった。 こめかみの辺りが熱かった。 左腕は徐々に皮膚に覆われて行き、数分で人の腕の形を成していた。 「―――化け物、なんて」 蛍の口が、小さく動いた。 「……そんなの、自分が一番よく分かってる……」 指の関節が白くなるほど、両の拳を握りしめた。 迎えに来た研究員に連れられて車に乗り込む。 こめかみを伝う血を気にする者は居ない。 あるのは、異形の被験体への蔑み、畏怖、研究に関わる者としての興味・関心 ただそれだけ。 続く…?
https://w.atwiki.jp/legends/pages/948.html
―第32章 最終奥義!― いつもは一人で帰る夕方だが、今日は少し違っていた。帰ったところでやる事がないのでゲーセンで時間を潰していたら何時ものようにUFOキャッチャーに苦戦する剛田に噛みつかれ、更にそこを委員長に見つかってなんやかんやで帰る事になった。 「全く、お前らいつまでそうやっていがみ合ってるつもりだ?」 「だって、こいつが何回も委員長って言うかr」 「そっちだってわざわざクリスチーヌって何度も言ってんじゃねーか!」 「何よ!」 「やるか!?」 「「ぐぬぬぬぬぬ」」 「…お前らマジでやめろ。高校生にもなってみっともない。」 「「だって!」」 「だってもクソもない。それよりも、お前らに言っておきたい事がある。」 「なんだよ、いきなり改まって?」 「お前ら、喫茶「ルーモア」って知ってるか?」 「話には聞いた事があるわ。確か都市伝説やそれに関連のある人が多く来るって言う喫茶店よね?」 「ああ、そうだ。」 「話が見えないぜ。単刀直入に言ってくれ。」 俺は2人に最近そこのマスターが※された事、※した奴は都市伝説の契約者であるという事、そして都市伝説と関わりのある組織が存在するという事、あくまでも推論だがもしかすると俺達フリーの契約者は近いうちに狙われるかもしれない事を告げた。 「嘘でしょ!?そんな事って!」 「いや、本当だ。事実、俺はいま力をつけすぎた所為で『組織』という名の組織に目をつけられている。」 「そんなっ!?」 「俺は既に『組織』の黒服という男と接触した事がある。彼らは『組織』という都市伝説の一部だ。」 「おーい、話の流れが見えない俺に産業で説明してくれorz」 「お前さんにも分かるように言えばや ば いって事だ。」 「ほうほう…そりゃ分かりやすいってオイ!!いくらなんでも馬鹿にし過ぎだろ!」 「冗談だ。それよりも、これがこの町に存在する組織の詳細データだ。」 そう言って俺はPDAよりデータを引っ張り出した。 「なるほどねぇ…。でもどうしてあなたがこれだけの情報を手に入れられたの?」 「その辺のお話は私が…」 「あ、出やがった。電子の妖精もdぶべらっ!!!」 「うちの月読にケチをつけるな。あと、話をするうえで重要になるかもしれんから今から俺ん家に寄ってってもらうぞ?」 「どう重要になるの?」 「それは聞いてからのお楽しみだ。」 「でもちょっと待って。今何時?」 「そうねだいたいね~♪って今は…16 59 59で止まってやがる。」 「俺は分かるぜ。何故なら一回同じ奴と戦ってるからな。その名も―」 「"逢魔ヶ刻"か、ちょっと厄介だな。」 「おい!折角人がいい気になってるところを邪魔するな!」 「だってお前面倒じゃん」 「ひでぇorz」 「おい、そんな恰好してると筋肉質の黒服がヤりに来るぞ?」 「それだけは勘弁っ!」 とりあえず俺等は街の方を目指す事にした。その近くに俺の住むアパートがあるからだ。しかし― 「くそっ!感付かれたか!」 周りの影から無数の人影が現れた!! 「ったく!こういうのは好きじゃないんだよね!天照、いるか!?」 「はーいっ!ここにいますよ!」 「じゃあ早速で悪いが、安全な所へ『転移』を頼む!皆!俺につかまれ!」 「分かったわ。」 「お前に命預けたぜ!」 「じゃあ天照、頼む!」 「せーのぉ!」シュン! ―ここは繁華街近くの公園みたいだ。ここからなら自宅も近い!さて、ここから歩いt 「待て、どこへ行くというのだ?そして俺が展開しておるこの"逢魔ヶ刻"の中で何故お前らは動けるのか、聴かせてもらおうか!」 そこには1人のリーマン…というにはみすぼらしい格好をした男が立っていた。 「お前がこの"逢魔ヶ刻"の犯人か。これは忠告だ。早く"逢魔ヶ刻"を解除しろ。さもなくば俺らが実力を以て排除する。」 「餓鬼のくせに生意気な事を言うんじゃねえ!俺はこの力を以て全世界の夕方を支配する!」 やれやれ…。聞く耳を持たないようだ。ならばっ! 「よし、皆。やれるな?」 「私はいつでも!」 「俺だって!」 「じゃあまずは俺が『結界』で戦闘域を狭めるから少しだけ持ちこたえてくれ。」 「「OK!」」 「じゃあ行くぜ、邇邇芸!」「倒すけどいいよね?答えは聞かないけどっ!」 「いきなさい!櫛名田!」「私に逆らうなんて本当におバカさぁん♪」 …あれ?なんか俺と居た時より違う次元に突出してないか?まあいい。 「天照!『結界』を半径20m圏内に展開だ!」 「いくよっ!」世界が反転する― 「月読、奴の弱点を分析してくれ。」 「了解です。ネットワーク干渉開始!…」キィィィン! 「建速は「いつもの2倍」だ。いいな?」 「了解だぜ、マスター!」 そう言って2本の刀に変化した。それを掴み― 俺は浮浪者に斬りかかった!しかし、影が邪魔をしてなかなか本体を攻撃できない。 「…くっ!厄介だな。月読、何か分かったか?」 「あの影はどうやら契約者の意思に応じて防御壁になったり影で模った日本刀で攻撃したりできるみたいです。また、契約者から半径2m圏内はどのような特殊攻撃も通さない絶対防御陣が展開されており、倒すなら拘束して物理攻撃を与えてやればいいかと。」 「…そうか。だったら「アレ」やるぞ。皆、準備はいいな?」 「勿論!」 「こちらも…」 「応よぉ!」 「「「「メガッ!フュージョン!!」」」」 「うおぉぉぉぉ!!プラズマカリバー!!」ガキィィィン! 「ふん!いくら我に攻撃しようとも無意味だと知れぃ!」 「ぐおっ!やはり駄目か。こうなれば…おい、お前ら。」 「「どうした!?」の!?」 「しばらく邇邇芸と櫛名田を借りたい。そしてここは俺に任せてもらいたい!」 「どうして!?」 「お前らが邇邇芸、櫛名田と精神融合出来るのは俺も知っている。何故なら元々は俺が先に契約していたからだ。この様な力があるにも拘らず当時の俺はその力を十分には使いこなせなかった。でも今なら使える。それだけの事だ。」 「…わかった、元はといえばお前の力なんだから使いたいときには好きに使えよ!」 「その代わり!私達をちゃんと守りなさいよ!」 「…分かった、ありがとう。」 「フュージョン・アウトッ!」シュゥゥン 「一時的とはいえ、懐かしいね元マスター♪」 「『今』だけは俺がマスターだ。しっかり頼むぜ?」 「言われなくてもそのつもりよっ!」 「今こそ真の力を使う時が来た!行くぜ!」 「「「「「「ファイナル!フュージョン!!」」」」」」 ―ついに我らが待ち望んだ主人公の真の力が解放された! 「す、すごい…すごすぎるぜ…」 「これがあなたの力の全て、なの?」 「そう、これが「結界都市『東京』」としての力の全てだ!行くぜ!ツインゴルディオンセイバー!!」 俺は銀と金の刀を手に浮浪者に向かっていく! 「ただ向かってくるだけじゃ意味がねぇって言ってるだろっ!」 当然のごとく影で止められ― なかった。むしろ、影を切り裂き、ゴルディオンセイバーの光へと昇華された影で明るく照らされるため、次々と影が消滅していく!! 「な、なんだとぉ!それでもこの絶対防御壁は破れないぜ!」 「それはどうかな?プラズマホールドッ!」 「何ぃっ!グハァッ!」 電磁波でがっちり捕まえられているため影も弱まってきた! 「これで最後だ!ディバイディングブレード!」 ―ディバイディングブレード。空間を湾曲させるだけでなく、複数のモノが混ざったモノを分離させる事が出来る、まさに「分離させる」剣なのだ! 「ぃいっけえぇぇぇぇ!!!」ズパーン!! 「グオオオオ…」 浮浪者から人型の黒いモノが抜け出た! 「そしてっ!ツインゴルディオンセイバー!」 一本の大剣が金と銀に輝く二振りの刀となった。 「セイバーヘルッ!」 まずは銀の刀で黒いモノを斬った。 「セイバーヘヴン!」 今度は金の刀で同じように斬った。 「光になぁれぇぇぇ!!!」 ―外はいつの間にか夜になっていた。おっと、こりゃ急がなきゃならんな。 「よし、とりあえずうちに来い。話はそれからだ。」 「ちょっ!それって強引すぎるんじゃ」 「うるせぇ。知っとかないとあとで絶対後悔するぞ。」 「はいはい、分かりました分かりました。行けばいいんでしょ?」 「分かったよ!俺も行くぜ。」 「じゃあ早く俺について来い。」 前ページ次ページ連載 - 結界都市『東京』