約 3,419,526 件
https://w.atwiki.jp/legends/pages/323.html
夜の街を、それは飛ぶ 音も立てずに、存在を誰にも察知される事なく それは、飛び続ける 存在し得ない、超高性能レーダーを積んだそれは、休み無く夜の街を観察し続ける 「……っふふ」 それが、観察しているものを 彼女は家にいながらにして、感じ取っていた 自分が契約した都市伝説は、何とも便利だ 飛ぶ高度を考えないと、街中にカマイタチ現象を引き起こしかねないスピードも出たりするが 契約して大分たった今となっては、そんなヘマも起こさない 「さぁ、今日はどんな素敵な素材がいるかしら?」 いつぞや見かけた男二人は良かった うん、萌え 萌えだ!! 次の冬の新刊は決まりだ! むしろ、今執筆中だ!! はぁはぁじゅるり、と涎を拭きつつ 彼女は都市伝説と感覚共有しながら原稿を描くという離れ業をやってのけていたのだった うん、マジゴメン 「単発もの」に戻る ページ最上部へ
https://w.atwiki.jp/legends/pages/4895.html
恐らく俺は気がついたらしい 心成しか、長い眠りについていた気がする どういう訳か右半分が真っ暗だ 失明でもしたのだろうか あちこちに痛みを感じる身体を、俺は無理に起こした 一瞬、右目に光が入った これは……髪か? こんなに長かっただろうか 起きる前に何をやっていたのか、考えた そうだ、俺は…… 「ご主人様ぁ!!」 突然、身体を強く抱きしめられた 痛みで呻きそうになったが、その姿を見て痛みどころではなくなった 「………ミナワ……なのか?」 「そうッですよぉ…もぉ、無茶ばっかり、してぇ……ばかぁ……」 「…すまなかった。俺の為に考えてくれたんだよな……有難う」 泣きじゃくるミナワをそっと抱きしめ、俺は彼女の頭を撫でた 「…本当に奇跡ですわね」 「一時はどうなるかと思ったが」 ふと見れば、ローゼちゃんが安堵を浮かべた表情でこちらを見ていた 隣にいるのは黒いローブを羽織った、黒い長髪に浅黒い肌、赤い瞳の妙齢の女性 「……ん? お前……」 初めて見た筈なのに 俺はそれが誰なのか、分かった気がした 「やっとヒーローが目覚めやがったか」 「無理もありゃせん、あれだけの事をしなすったんでい」 「ま、大馬鹿者も良い所だね」 「ボス、身体の具合は、宜しい、でありますか?」 次々に視界に入ったのは、 白い毛皮のジャケットを着た、白髪で碧眼の、八重歯が目立つ十代くらいの少年 赤い袴を着て黄色い扇子を持った、赤髪で細目の二十代くらいの男性 紫色のジャンパーを着て金の柄の剣を持った、紫の長髪を後ろで縛った小学生くらいの少年 灰色の迷彩服を着た、灰色のセミショートで感情の薄い10代くらいの少女 「……何?」 「あ、えっと、ご主人様、この方達は―――」 「理夢、ウィル、ナユタ、それにビオ……なのか?」 「へぇ、分かるもんなのか。流石は主だぜ」 「覚えて頂き光栄、であります」 白髪の少年――理夢は、腕を組んで満足そうに言い、 灰髪の少女――ビオは敬礼しつつ、ポーカーフェイスで言った 「いやーしかし、まさか人間になっちまうたぁ思いやせんでしたねぇ」 「おほほほ、全くですわ♪」 「ムギュ……き、君、僕の事を嫌っていた筈じゃなかったかね?」 「貴方が子供なら話は別ですわ♪ あぁん可愛らしい♪」 赤髪の男性――ウィルは扇子を広げて笑い、 紫髪の少年――ナユタはローゼちゃんに抱きしめられて苦しそうにしていた と、いうことは…… 「…お前……シェイドか」 「あぁ。意外そうだな?」 「女だと思ってなかったからな」 「……我々には、性別の概念がなかった…筈なのだが」 「でも、どうしてこうなったんだ?」 「その説明に至る前に、他に話さなければならないことがあります」 ばたん、とドアを閉めて現れたのは蓮華ちゃんだった その表情から察するに、状況はあまり宜しくないようだ 「……話、というのは?」 「まず最初に…とんでもないことをやらかしましたね」 アタッシュケースを開けて彼女が取り出した袋には、 金と紫、灰色の、3つのパスの破片が入っていた 不意に己の胸元に手を当てると、そこには金色の枝のペンダントになった「レイヴァテイン」が提げられていた 「貴方が融合を解いた時、貴方の傍に落ちていました これが破壊されているという事は、今の「レイヴァテイン」、そしてナユタとビオは、仮契約では無く本契約されている つまり…貴方は7つの都市伝説と本契約を結んでいる状態だということになります」 「…皆が無事で俺も生きているという事は…成功してた訳か」 「いえ、そうでもありません」 「何?」 「じ、実は……あの後、私達はすぐに目を覚ましたのですが、ご主人様は……」 「7つの、しかも実際はトータルで14の都市伝説と本契約を結んでるんですよ? 器が耐えられる訳がありません……現に、貴方も飲まれる寸前でした」 「なっ……!?」 「ですが、裂邪さん自身が抵抗し、ギリギリ保っている状態でした が、放っておけば飲まれ……消滅していたかも知れません まぁ、御存知の通り今は大丈夫です。ちょっと手古摺りましたけど…」 と、蓮華ちゃんが俺の布団を勢い良く剥ぎ取った 俺が見たのは、俺の腰に巻かれたベルトだった 『ウルベルト』のようだが、少し違う 「……新しいベルトか?」 「壊したり、外したりできないように設計してありますが…絶対にしないで下さいね? もしこのベルトが貴方の身体を離れたら、その時は死ぬと思って下さい」 「物騒だな…」 「今までのものは都市伝説召喚機に過ぎませんでしたが、 こちらは都市伝説制御装置になりますからね」 「だが、パスはどうするんだ?」 「パスの代わりに、これを使います」 手渡されたのは、黒をベースに金のラインが入ったスマートフォンだった 良く見れば、俺のXperiaに似ている 「貴方の故障したスマートフォンを改造しました 使い方は後程改めて説明致しますが、主な用途は3つ 1つ目は都市伝説の呼び出し 2つ目は都市伝説との繋がりの調節 3つ目は都市伝説との融合」 「繋がりの調節?」 「「教会」のロリス・カスティリオーニから頂いた、契約を司る天使「メタトロン」の羽を用いて、 契約都市伝説の繋がりの強弱を調節し、契約者への負担を和らげます」 「ほう…ん、融合もこのベルト頼みか?」 「当たり前です。これまでのように直接すると一気に飲まれます 代わりに、融合時の負担も軽くなりますので」 「へぇ……有難う、後で詳細も宜しくな」 「はい」 「で、こいつらがこうなった理由だが」 俺はシェイド達を見回した ウィルは顔を顰めて紫の扇子を煽いでいる。感情で扇子の色が変わるのか ナユタは未だにローゼちゃんに抱きしめられていた。いい加減苦しそうだな 「私も断言はできませんが…… 恐らく、貴方が7つの都市伝説と同時に、情報が混ざってしまったんだと思います」 「混ざった?」 「成程、要は裂邪が都市伝説に近くなった代わりに、 我々が裂邪から“人間”の情報を得た……ということか?」 「そんなところですね」 「待て、じゃあ「レイヴァテイン」はどうなる? これだけは今まで通りなんだが」 「これも憶測ですが、貴方と一番繋がりが深くなったのだと思います 簡単に言えば、「レイヴァテイン」は貴方自身であり……貴方は「レイヴァテイン」の一部でもある、と」 「……有難う、大分理解できた あぁそうそう、この髪なんだが―――」 「やっと気付きましたね! そこなんですよ私が気になってたのは!」 やけにテンションが上がる蓮華ちゃん この子こんなキャラだったか? 「やはり推測の域を出ませんが、一度全ての契約を解除したことで止まっていた成長が進行したんだと思います 何せこれも初めて見た現象なので、まだ何とも言えないんですよ」 「そういや主、背も伸びてたぜ」 「本当か?」 「はい、測ったら何センチか伸びてました」 「確かに興味深いな……そんなこともあるのか」 実際どれくらい伸びたのだろうか…後で調べておかねば ふと天井を見ながらそんなことを考えていると、視界に黒髪の女性が映った 「どうした、シェイド?」 「誰も口にしないから敢えて言うが…お前何日寝てたか知ってるか?」 「へ?……おい今何日だ?」 「11月5日土曜日…丸5日眠っていた、であります」 「しまった……学校は!?」 「ご安心を。御両親に報告した上で、ルートちゃんに頼んでインフルエンザ感染を理由とした出席停止の処置を取らせて頂きましたの」 「…ふぅ、良かった……」 「何処がだ!! この5日間、我々がどれだけ心配したか分かってるのか!? 少しは自分の身の安全を考えて行動しろ!!」 両肩を掴まれ、部屋が静かになるほど怒鳴られた あまりに唐突すぎて、思わず視線を反らしてしまった 「…わ、悪かった、シェイド……心配させてごめん―――」 そう言いかけた直後だった 初めて、俺はシェイドに抱きしめられた 心が安らぐような、優しい匂いがした 「……え?」 「もう、私に心配をかけさせるな……馬鹿息子」 言われて、心の奥底から、何かが溢れそうになった 今この瞬間に、彼女に―――シェイドに伝えたいことが、湧水のように、幾多も溢れ出す その多くが、上手く言葉にならずに霧散して消えていった ただ一つだけ、言い出せたのは 「………母、さん………」 それ以上は何も言えなかった 涙を隠す為に顔を埋めると、ぽん、と頭を撫でられた 優しく、温かな感触だった 「はーいストップストップ!」 突然、シェイドが引き離され、入れ替わるようにミナワに抱きしめられた いつになく、強い力で 「ミ、ミナワ? どうかしたのか?」 「どうもこうもありませんよ! 不毛すぎます! シェイドさん、今私の裂邪を誘惑しようとしてたでしょ!?」 「なっ!? ば、馬鹿違うっ!?」 「だって裂邪の顔を胸に押しつけてたじゃないですか! ただでさえ大きいのにやめてくださいよ! ねぇ裂邪♪」 「ミナワ、」 「何ですふぁっ!?」 俺はミナワの頬を抓った もっちりとした幼い肌はよく伸びた 「い、いふぁいいふぁい! ふぁ、ふぁんふぁんふぇふふぁ!?」 「お前が何なんだ、あの状況で割り込まないだろ普通 あとシェイドに限ってそういう気を起こす訳が無い事はお前も解ってる筈だ」 「ほ、ほふぇんふぁふぁいぃ~!」 「解れば良い……ッヒヒ」 頬から手を離すと、俺はミナワを強く抱きしめ返した 「ふえ!?」と驚いたようにあげた声が久しぶりで、一層愛おしく感じた 「言っただろ? 俺はこの世で唯一お前だけを愛してる。お前だけが俺の女だ」 「えっ、や、やだっ、そんな、皆の前でッ……れ、裂邪ぁ……///」 「…なぁ、なんか主、いつもと違ってねぇか?」 「そうだね、契約の副作用か何かかも知れない」 「? ボスはボス、であります」 「あー、ビオの姐さん、そういう訳じゃ―――」 「あのぉ…そろそろ良いかしら?」 完全に蚊帳の外だったローゼちゃんが、冷や汗をかきつつ訊ねてきた 蓮華ちゃんは、膝を抱えて回転椅子に座ってくるくる回っていた……何かあったのか? 「えっと、これから裂邪さんのコードネームを発表しようと思いますの」 「コードネーム?」 「『Rangers』のメンバーには、任務の時はコードネームで活動して頂く決まりですの 本当は初任務の時に言い渡す予定だったのだけれど、いつものノリで……てへっ♪」 「いや忘れてたんじゃねぇか」 「コードネームでござんすか、なかなか「組織」らしくなってきやしたねぇ」 「……それで、俺のコードネームは?」 ふふん、と勿体ぶったような顔で、ローゼちゃんは鼻を鳴らし、 ハイヒールの音を響かせて俺の方に歩み寄った 「…裂邪さん、これからは「組織」として、様々な任務をこなして頂く事になりますわ でも、貴方なら……いいえ、“貴方達”ならきっと、どんな困難にも立ち向かえると、ワタクシは信じています “七つ”の都市伝説を使役し、“七つ”の色に“変化”する………」 彼女は立ち止ると、右手を、す、と挙げ、 ビシッ、と勢い良く俺を指差した 「裂邪さん……いいえ、貴方の名は…………」 ...To be Continued 前ページ次ページ連載 - 夢幻泡影
https://w.atwiki.jp/legends/pages/537.html
禿「師よ・・・どうか安らかに・・・」 空を見上げポツリと呟く あぁ、イエさんに続き貴方まで失う事になるとは・・・・・・ 禿「大丈夫ですか?」 太郎「はい、貴漢のお陰で助かりました・・・・・・」 口では大丈夫と言ってるものの恐らくは辛いのだろう・・・私だってキツいのだ 禿「状況はあまり良いとは言えないでしょう・・・・・・『夢の国』、それに『鮫島事件』とは・・・」 太郎「彼も無事だと良いんですけど・・・・・・」 このまま手をこまねいてる訳には行くまい・・・ 禿「我々にはもう戦う力が残されていません・・・」 太郎「悔しいけど、その通りです・・・」 禿「ですが、何もしない訳には行かないでしょう・・・・・少し下がってください、奥の手を使います」 まさか、アレを使う事になるとは・・・できれば使いたくなかった・・・ 禿「ハァァァァァッッ!!」 残された兄気を全て解放する!! 禿「来たれ!我が歴戦の盟友達よ!!」 金色の兄気が空気中に散って行き、蜃気楼の様に大気が揺らめき、兄気は人の姿を象って行く かつて契約していた盟友達へと・・・ 太郎「これは・・・・・・」 禿「私の奥の手・・・かつて契約していた、そして今は一つとなっていた都市伝説達を解放する力・・・」 この身一つで戦うことを信条としていた私の奥の手 そう・・・ 禿「 裸 漢 招 来 !!」 その叫びと共に完全に顕現を果たすかつての盟友達!! 『青いツナギの良い男』や『エイズ・サム』達が私の周りにひしめく 禿「盟友達よ・・・行きなさい!!」 ガチムチ兄貴達「「「「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」」」」 太郎「あんな・・・たくさんの都市伝説と契約していたのですか・・・?」 禿「類似した都市伝説ですし、ほんの40人ほど・・・大したことはありませんよ」 頼みましたよ、盟友達 どうか、私の代わりに町を救ってください・・・! この後、学校町内で全裸のガチムチ男の目撃情報が相次ぐこととなるが 割とどうでも良い話である 前ページ次ページ連載 - はないちもんめ
https://w.atwiki.jp/legends/pages/2715.html
目が覚めた、その瞬間 恐怖が彼女を支配した 「-------ぁ」 自分は 何をしていた? 何をしてしまった? ただ、彼に振り向いて欲しかった ほんのちょっとでも、彼に想いを伝えたかった ただ、それだけだった、はずなのに 「ぁ、あ…………あぁあああああ………」 自分は 何をしてしまった そして 自分は、何の力を借りてしまった にょろり たこが蠢く 自分が生み出した、タコが 「っいやぁあああああああああああああああああああああああああ!!??」 彼女は悲鳴をあげた 恐怖に、絶望に 自分が、このタコを生み出した? こんな、あまりにも大きな……化け物じみた、タコを いや、それよりも、人間がタコを生み出すなんて、ありえない 一体、自分の体はどうなってしまっているのだ? そして、ここはどこだ? 自分と、よくわからない筋肉質の男二人以外には、誰もいない空間 どんなに助けを求めても、誰もない 誰も誰も誰も誰も誰も誰も誰も誰も誰も誰も誰も誰も誰も誰も誰も誰もだれもだれもだれもだれもだれもだれもだれもだれもだれもだれもだれもだれもだれもだれも…… 恐怖と絶望が、彼女の精神を支配する それは、彼女の精神の限界を、超えようとしていて その精神を、完膚なきまでに、壊してしまいそうで……………--------- ずる、と その体が、どこかに引きずり込まれる それは、彼女の心に新たな恐怖を生み出した 引きずり出された場所が、どこなのかもわからず、彼女は悲鳴を上げ、暴れ続ける 「嫌、嫌、嫌ぁああああああああああっ!!??」 「っちょ、せっかく出してやったんだから、暴れるなっ!?」 小さな女の子の声が聞えてきた気がした でも、きっと違う これは、女の子なんかじゃ、ない ----化け物だ 彼女の本能が、そう告げてくる 嫌だ 怖い どうして、自分がこんな目に 「嫌だ、怖いよ……助けて、日景、く…………」 彼女の言葉は、最後まで続かなかった 暴れ、泣き喚く彼女の顎を、何かが強引に掴む 無理矢理顔をあげられ…そこには、ツギハギの傷をもった顔の男が、いて それが、サングラスを外したのを見たのを、最後に 彼女の意識は、闇へと消えた 「…記憶の消去が完了した。この女性に、都市伝説と関わった記憶は一切、残っていない」 「そう………手間をかけさせたわね」 G-No.1の無感情な言葉に、そう答える望 G-No.1の代わりに、ヘンリエッタが望に告げる 「構わんよ。アフターケアも、「組織」の仕事のうちじゃからの」 「本当なら、永遠に鏡の中に閉じ込めておいても良かったんだけどね」 「私が鏡の前通るたんびに、発狂寸前の悲鳴が聞えまくりだよ?こっちが気が狂いそうになるってば」 ため息をつく望の言葉に、そう訴える詩織 そう、藤崎 沙織から、悪魔の囁きが消滅して以降……元々、都市伝説と言う存在を受け入れてなかった彼女は、己の現状に発狂しかけていたのだ そして、彼女のその悲鳴は、鏡と言うツールを通して詩織に伝わり続ける訳で …いくら彼女が都市伝説とは言え、発狂寸前と言うか、ほぼ発狂した人間の悲鳴を聞き続けるのは、少々精神衛生面によくない そこで、大樹に頼むのは、少々気が引けたのだ ヘンリエッタを通して、G-No.1に、藤崎の、都市伝説に関する記憶の消去を頼む事にしたのだ ついでに、藤崎が「タコ妊娠」と契約してしまっている状態も、どうにかしてもらうつもりだ 「…まったく、私も甘くなったわね」 こっそりと、望は苦笑する 翼が、なるべく殺すなと言ったから、藤崎を殺さなかった …藤崎を、詩織の能力から解放したのも 鏡から綺麗な藤崎を出せばどうにかなるかとも想ったが、冷静に考えると、大樹にはその真実がバレるから、と言うのもあったのだ 大樹の胃痛の種は、増やしたくない こうして 望の寛大な処置やらなにやらで、藤崎 沙織は現実の世界に戻ってきた 彼女から都市伝説が剥がされ、彼女が日常に戻った時 彼女は、今回の騒動に関わった、その全てを忘れ去っていた ただ 残った恋心は、永遠に叶う事はないのだと言う ほろ苦い想いだけを、残して fin 前ページ次ページ連載 - 悪意が嘲う
https://w.atwiki.jp/legends/pages/1259.html
マッドガッサーと愉快な仲間たち 07 (死人部隊より) 「………ん?」 「どうした?」 「あ、いや、なんでねぇ」 …さっき、視界の隅に入った血色の悪い連中は…確か、「首塚」の仲間の中年が契約している「死人部隊」 誰かを追いかけていたようだったが… ……まぁ、そんな問題行動起こす奴じゃなかったはずだし、大丈夫だろう それに (…こいつは、都市伝説に絡ませたくないしなぁ…) 久々に再会した、小学校の頃からの友人 大学の関係で隣町に引っ越したはずだったが、学校町が懐かしくなって、戻ってきていたらしかった こちらから大学に通うのは大変だろうに …小学校の頃は、友人などほとんどいなかった そんな自分に声をかけてくれた、一緒に遊んでくれていた友人 ……だからこそ、都市伝説絡みの事には巻き込みたくない 昔から、こいつが巻き込まれそうになったら、自分が何とかしてきたのだ また、学校町に戻ってきたのなら…こいつが都市伝説に襲われそうになったら、自分が助けよう 自分は、都市伝説と契約しているから…都市伝説と、戦えるから それが、あの頃、周りの同級生たちの話題に入る事すらできないでいた自分の友人でいてくれたこいつへの恩返しだ 「何だよ、面白いもんでも見たんじゃないのか?」 「いや、気のせいだったから」 …どう考えても、「死人部隊」の連中が三人くらい走っていたのは…何かを追いかけていたのは見間違いではなかったのだが こいつが興味を持たないよう、そう言っておく そうか?と友人は首を傾げたが…とりあえず、興味を失ってくれたようだ 「んじゃあ、俺はこれで」 「何だよ?もう帰るのか?」 「あぁ、夕飯作らないと」 「あー…同居人がいるんだったか。大変だな」 「いや、別に大変でもないさ」 一人分作るも、三人分作るも、自分としては大して変わらないと思う それに、三人分の方が作りやすい物もあるし…鍋物とか 今夜辺りも寒くなってきたから、白菜鍋でも作ろうか 「それじゃあな」 「あぁ、またな」 ひらひらと手を振って、友人と別れる …黒服と、一緒に生活できるようになったし 友人と、また会えるようになったし 最近、いい事が続いているな、と よく日焼けした金髪のその青年は、どこか幸福な気持ちを抱えて、家路につくのだった * 「…………」 彼は、その金髪の、日焼けした青年の後ろ姿を見送った ……あぁ、幸せそうだな 妬ましいな 昔は、あんなに幸薄そうだった癖に 自分が声をかけなければ、人の輪に入る事もできなかった癖に……! いつからだったろうか、あいつが変わったのは 気づけば、あいつは少しずつ明るくなっていっていた 少なくとも、自分がそれに気づいたのは、確か授業参観の日 いつも通り、あいつの親は来ないんだろうな、と思って あいつが落ち込むだろうから、後で慰めてやろうと思って… ……だが、あの日、誰の親かもわからない、黒尽くめのスーツの男が顔を出して その男を見て、あいつはどこか幸せそうに笑って …あの男が、あいつが変わった原因なのだと、俺は知った 変わったあいつは、どんどん変わり続けていった 体を鍛え、高校に入ってからは親元から離れたせいか、色々と吹っ切れてあぁいう外見になって 昔は、何もかも、俺が勝っていたはずだったのに 何時の間にか、何もかもで負けるようになった あぁ、妬ましい、妬ましい あの頃に戻りたい 何もかも、全てあいつに勝っていた、あの頃に 「…マッドガッサーとマリが追いかけられてたな……まぁ、俺がいなくてもどうにかなるだろうが、助太刀しに行くか」 魔女の一撃はいないが…まぁ、俺だってある程度の戦闘力は持っているつもりだ ちょっとくらいなら、力になれるだろう …もしかしたら、とっくに戦闘が終わっているかもしれないが そう考え、「魔女の一撃」の契約者は、マッドガッサーとマリ・ヴェリテが、死人部隊に追いかけられて逃げていった方向へと向かう ………さぁ、あの友人を、いつ裏切ってやろう? いつ、絶望のどん底へ落として……支配してやろうか? そんな歪んだ願いを、こっそりと抱えながら… to be … ? 前ページ次ページ連載 - マッドガッサーと愉快な仲間たち
https://w.atwiki.jp/legends/pages/1504.html
占い師と少女 日常編 04 南区にある商店街の一角。 私は占い師さんを連れて、買い物に来ていた。 「早く行きますよ、占い師さん」 「…………すっげぇ、重いんだけどよ」 そういう占い師さんの両手には、計4つのレジ袋がぶら下げられていた。 生鮮食品もこうして持てるのは、秋の冬日+曇り空の特権だと思う。 「つーか、こんなに買う必要あるのか?」 「安売りをしてる時にまとめ買いをした方が安上がりなんですよ」 「しかしだな――」 「大体、占い師さんが値段も見ないでスーパーで買ってくるのがいけないんですよ! チラシだって見ないですぐに捨てちゃうし……」 私が外出禁止を命じられていた数日間の食費は……正直あんまり考えたくない。 「塵も積もれば山となるんですよ。無駄遣いも続ければ莫大な金額になりますし、逆にそれを貯めればいざって時の貯金にもなりますから」 「へいへい…………」 「ほら、次の八百屋さんは占い師さんしか知らないんですから、ちゃんと先導お願いします」 「……そういや、まだ増えるんだな、この荷物……」 ―――――――――― 「おう、兄ちゃん。今日はえれぇ大きな荷物持ってんな。それにこっちは例の譲ちゃんかい?」 「よう、八百屋の大将。それと『例の』なんて付けるとなんか如何わしくなるから止めてくれ」 「あ、あの、初めまして」 商店街の中心から少し外れたところに、その八百屋さんはあった。 (……これが、あの八百屋さん……) 実は、今回の最重要目的はこの八百屋さんの所在だったりする。 占い師さんがざっくばらんに、必要とあらば高い安いの区別なく買ってくる物の中で、唯一安いのが野菜だったのだ。 それも、全てスーパーでの定価の3分の1ほどの値段で。 それ気付いて占い師さんに問いただした後、教えてもらったのがこの八百屋さんなのだが……。 「人でいっぱいですね……」 八百屋の店先は、人でごった返していた。 地元の主婦が全員来ているんじゃないかと思うくらいの、主婦の群れ。 正直、怖い。 「いや、おかげさまで繁盛してるよ、全く」 「初対面で『おかげさまで』も何もないだろ」 「言葉のあやとりってやつだろう? 冗談が通じないと女の子に嫌われるよ、兄ちゃん」 「ああ、まさに今は『言葉のあやとり』状態だろうよ。しかも完全に絡まってる奴な」 親しそうに話す占い師さんと八百屋の大将。 昔からの知り合い以外、基本的に他人には無関心な態度を取る占い師さんにしては珍しい態度だ。 (…………もしかして) 「あの、大将って、都市伝説とかと関わりは……」 間違っていても適当に取りつくろえる範囲で、大将に尋ねる。 私の場合は能力を使えばすぐに分かるだろうが、できるだけそういった無粋な事はしたくない。 「おう、契約者って奴だな」 「何だ、能力を使えば分かるだろ、お前は」 無粋な真似を平気でする占い師さんはこの際放っておく。 「じゃあ、この人ごみって……」 「俺の契約した『戦争状態の購買』の能力だな」 「え? でもここ、八百屋さんですよね?」 「契約ん時にどこでも使えるようになったんだわ」 ……なるほど。 でも、職業倫理的にそれはどうなんだろう。 私の視線と、その意味に気付いたのか、大将は手をひらひらと振って 「なに、ちゃんと競争して買うだけのもんにはしてるつもりだよ、嬢ちゃん」 「つーか、ここに来た目的、覚えてるか?」 「えっと……」 ここに来た目的、つまりは野菜を買うため。 で、なぜこの八百屋かというと―― 「……値段、ですか?」 「おう、大量購入して、能力を使って大量に売る。だからこそできる値段ってわけだ。確かに能力で購入意欲は増やしてるけどよ、何も操って無理やり買わせてるわけじゃねぇんだぜ? ちょいと色をつけて買っては貰ってるけどよ」 客商売をしてる上で身に付けた技能なのか、凄いマシンガントークだ。しかもべらんめぇ口調。 その後も、徐々に能力を使うのをやめて、1、2年後には全部このままの値段で売るつもりだとか、その他色々と言葉を正に「ぶつけ」られ、私は白旗を上げるしかなかった。 「……ってか、買い物はいいのか、嬢ちゃん。早くしねぇと売り切れちまうからよ、うちの商品は」 「………え?」 店先を見るが、人だかりで肝心の商品の量が分からない。 というか、さっきより人が増えてるようだった。 「お勘定はどうしてるんですか? あれだけの人を捌くのは大変そうですけど……」 「そこは能力使ってちゃんと無人のバケツに入れてもらっとるよ。野菜がなくなりそうだったらさすがに俺の出番だがな」 お勘定なんて所でも能力が発揮されるのか、と思わず感心してしまう。 ……でも、これでもう疑問もなくなった。 「じゃあ私、行ってきますね!」 そう占い師さんに声をかけて、群衆(まさに『群衆』だ)の中へと飛び込んでいく。 能力を使って、最短に、安全行けるルートを検索する。 ちょっと怖いけれど、私だって負けられないのだ。 「元気ないい子じゃねぇか、兄ちゃんにはもったいない」 「それ以上言うと殴るぞ、大将」 ……未来が人だかりの中へと入り消えた後も、俺は大将と話を続けていた。 「しっかし、俺のかみさんはお前さんの話になると毎回『あんな偏屈、契約者を得られるわけがない』っつってたのになぁ」 「大将も会うたびにその話をしてる事に気づいてんのか?」 「いやいや、今日はかみさんが都市伝説契約者だったって知った日の次に驚いた日になってんだよ。実物を見ちまったんだからな」 「未来が都市伝説みたいな言い方だな、おい」 以前この町に住んでいた知り合いの都市伝説、その契約者の夫がこの大将だった。 ……いや、会った当時は大将もその嫁もガキだったから夫になるかどうかは知らなかったが。 その嫁は数年前に病気で死に、それと期を同じくして都市伝説の方も町を去ったらしい。 「ってか、俺的には大将が都市伝説と契約した事の方が驚きなんだが」 「そりゃ、死ぬ前かみさんに『店おっきくして、でっけぇ墓建ててやる』って言っちまったからなぁ。悪魔じゃなく都市伝説に魂を売ったわけよ、俺は」 まぁ、縁起でもないって殴られちまったけどよ、と冗談交じりに言っているが、内容はひどく凄惨だ。 「まぁ、大将が状況を受け入れてるならいいんだけどな」 「そりゃ、契約した以上は受け入れるしかねぇだろうが」 その一言で片づけられる大将は、きっと強いのだろう、その精神も、妻との絆も。 俺と未来の絆は、はたしてどれだけの強度を持っているのだろうか。 (後で聞いてみるか……) その時未来がどんな顔をするのか、今から楽しみに思う占い師だった。 終 前ページ次ページ連載 - 占い師と少女
https://w.atwiki.jp/legends/pages/3178.html
学園祭に向けて準備が進められているとある放課後、双子の姉妹である「犬神憑き」の契約者、天倉紗江と「怪人アンサー」の契約者、天倉紗奈は家路へと歩いていた。姉妹の後ろを、「犬神憑き」の内の一匹の黒い大型犬がついてきている。 「紗奈ちゃんのクラスの出し物、執事・メイド喫茶だっけ?」 「うん、そうだよ。今、荒神先生にも執事服を着せようってクラスの有志で追いかけてるんだけど…なかなか捕まってくれないんだよねー でも、獄門寺くんや小鳥遊くんも手伝ってくれてるんだもの…絶対に執事服を着せてみせる! 紗江ちゃんのクラスは?」 イベントや行事に対してやる気を見せる紗奈。 今回の場合、やる気に加えて普段白衣を着ている荒神先生の執事服を見たいという好奇心もあり、有志の一人として先生を追いかけていた。追いかけられている先生にとってはたまったものではないだろうが。 「(あ、荒神先生も大変なんだなぁ…) 私のクラスの出し物は『ワクワクトレジャーボックス』だよ。手錠で繋がれた男女1組がペアを組んで、校内に置かれた箱の中から手錠の鍵を探すの。箱には鍵以外にもいろいろ景品が入ってて、空けた人が貰えるんだよ。 執事・メイド喫茶かあ…紗奈ちゃんのメイド服見たいなぁ。見に行ってもいいかな?」 「へぇ…なんか楽しそうだね。休憩時間に顔出しにいくからね。 紗江ちゃんなら大歓迎だよ!来てくれるの楽しみにしてるね」 「君たち…注射をしても…いいかな?」 和やかな空気は、毒々しい色の薬品の入った注射器を持って、ボロボロの黒いコートを着た注射男の登場によって霧散した。 「お断りします!」 「よくないっ!」 即答する紗江と紗奈。注射器の中の液体が都市伝説にも効くのか分からないので、念のため犬神を下がらせておく。 「そんなこと言わずにさあ…注射をさせてくれよぉぉぉ!!」 目を血走らせて姉妹に襲い掛かる注射男の攻撃を左右に分かれて回避。 紗江が注射器を持っている方の手首に手刀を打ち込み、取り落とした注射器を遠くへ蹴飛ばす。 紗奈が注射男の手首を取り、外側に返すようにして注射男の体制を崩して地面に倒した。 犬神が倒れた注射男の喉に噛みつく…首の骨が折れたのか、ごきり、と音がしてそれきり注射男は動かなくなった。 「そちらのお二方、少しよろしいですか?」 注射男を倒した直後、背後から声をかけられた。 二人が振り向くと、いつの間に現れたのか、黒いサングラスを付けて黒いスーツを着た男性が立っていた。 「…どちら様ですか?」 「…何か?」 「失礼いたしました。私は、都市伝説から一般人を守る「組織」という機関に所属している黒服…A-No.666と申します。 先ほどの戦いを拝見させていただいた結果、ぜひとも組織に貴女方のお力を貸して頂きたいと思い、お声を掛けさせていただきました。 私達と共に、悪事を働く都市伝説から罪なき人々を守ってはいただけませんか?」 突然の出来事に、しばらく考えていた二人が口を開いた。 「…わかりました。私達の力で、悪い都市伝説から家族やクラスメートを守れるなら…」 「…わかった。せめて、身近な人達は守りたいから」 こうして、天倉姉妹は組織に加入することになる。 組織の闇も知らないまま… 続く…?
https://w.atwiki.jp/legends/pages/2396.html
酒には、不思議な力がある 適度に飲めば薬であり、しかし、度を過ぎれば毒となるそれ 心を開放的にし、普段口にできぬ悩みすらも、見ず知らずの人間に相談してしまうような事態にすら、物事を進めてしまう 彼、五十嵐にとって、酒の力に流された事は、不幸でしかなかった しかし、少なくともこの日、彼は幸運であったと、そう感じたのだ 「…それはそれは。大変な体験だったようで」 「……はい…まったく…」 ぐでんぐでんに酔っ払っている五十嵐 辺湖市新町の隣町である学校町 そこのとあるバーで、彼は飲んでいた そして、見事に出来上がっていた もう、飲まなきゃやってられない気分だったのである 何が悲しくて、初めてがマッスルな校長でなければならないのだ いっそ、死にたい 彼にとって人生の汚点とも言えるそれを、見事に酔ってしまっていた彼は、たまたま隣の席に座った中年男性に、ぼろぼろと話してしまっていた 恐らく、翌朝覚えていれば、後悔するであろう行為 しかし、この瞬間、己の中に溜め込むのではなく吐き出す事で、彼の心は多少なりとも、軽くなっていた …そして そんな、話されてもどう対応したら良いのかわからない、いっそ引くようなその話を 灰色のコートを着たその中年男性は、静かに聞いていてくれていて 話し終わった五十嵐を見つめ……問い掛けてくる 「…それで。君は、どうしたんだ?」 「え?」 「そんな、パワーハラスメントを受けたんだ。訴えようとか、そう言う方向に考えは及ばないのか?」 言われて、五十嵐は視線を沈ませる …訴える? それこそ、彼にはそんな勇気はなかった 人生の汚点とも言える、禍々しい行為 それを、裁判所に訴えるなど、恐ろしくて、恐ろしくて とてもじゃないが、できない それを、正直に話すと…ふむ、と中年男性は、ゆっくりと続けてくる 「…復讐したいと、そう思わないか?」 「復讐…?」 「君に、そんな行為を行ってきた、その男を。社会的なりなんなり、抹殺したいと……そうは、思わないか?」 酷く、物騒な事を話される それは、と五十嵐は視線を彷徨わせて……悩む それが、できるならば……と、一瞬 ほんの一瞬、考えてしまって その瞬間 ぱりんっ、と 五十嵐の中で…何か、卵が割れたような そんな、錯覚を感じた 『復讐シチマエヨォ、憎インダロォ?』 「--------っ!?」 己の中に、響いた声を 五十嵐は、確かに聞いた 「…どうした?」 「い、いえ、何も」 中年男性に不審がられないよう、慌てて返事をする 何だ? 飲みすぎて、幻聴が聞こえるようになったか? 『殺シテェダロォ?テメェヲ汚シタソノ野郎、メッタメタノギッタギタニシテヤリテェダロォ?』 声が、楽しげに誘惑してくる 酷く、酷く、誘惑的なその声 破壊的なことを行えと、それは楽しげに誘ってくる 何が起きているのか 酔った思考が、混乱する その混乱に、拍車をかけるように…中年男性は、笑って、五十嵐に提案をしてくる 「…都市伝説と、契約して見ないか?」 「都市……伝説……?」 そう言えば、あのおぞましい行為を行っていたとき 校長が、そんな単語を発していたような気がした 「そうすれば、君は新たな扉を開く事ができるだろう……君に、おぞましい行為を行ったその人物を。ありとあらゆる意味で抹殺できるだけの力。それが、手に入るかもしれない」 「…力、が」 『ソウダゼェ!!ホラホラホラホラホラホラホラァ!契約シチマエヨォ!!!』 中年男性の言葉を後押しするように、内なる声が誘う 都市伝説と、契約 そうすれば…力が、手に入る? あの校長に……復讐、できる? 悩む五十嵐の前に…中年男性は、す、と 一枚の紙を、見せてくる 「それは…」 「都市伝説との、契約書だ。君に相応しい都市伝説の名を、既に記入している……後は、君がサインをすれば。君はこの都市伝説と契約できる」 『ホラホラホラホラァ!!目ノ前ニ力ガアルゾォ!受け取トッチマエ!!力ヲ手ニ入レチマエヨォオオオオ!!!!』 二つの声が誘う 契約しろ、と誘惑してくる あまりにも魅力的な、その誘い ……酔って混乱した思考 いや、この瞬間、もしかしたら、酔いが覚めて、冷静になっていたかも、しれないが この夜、彼は悪魔の囁きに乗ってしまった ……帰り道 雪が舞い散る道を、彼は一人、歩いていた 何だか、気分が随分と軽い 一体、自分は何故、あんなにも思い悩んでいたのか それが、何だか馬鹿らしくなってきた 一人帰る、彼の前に 「HAHAHAHAHAHAHAHAHA!!!」 響き渡る、笑い声 やせいの あにきが てんからまいおりてきた !!! 全裸のマッスル兄貴が、天から降りてきた それは、某最強マッスル禿から生まれた野生の兄貴 男を「ッアー!?」の道へと誘う存在 その、マッスルな姿に おぞましい存在を思い出し、五十嵐は眉を顰める 「OK,そこのお兄さん、Meと熱い夜を…………ん?都市伝説の気配…」 ……あぁ、そうだ 丁度いい 五十嵐は、ニタリと笑う たっぷりの、たっぷりの邪悪が篭った笑顔 彼の携帯が、着信を告げる 五十嵐は、迷う事なく、その電話に出た 『23時15分。私はどこ?くすくすくす』 向こう側から聞こえて来たのは、愛らしい幼女の声 その声に、五十嵐は愛情を込めて、答える 「君は、全裸の変態の背後にいるよ」 「む……!?」 咄嗟に、背後に振り返る兄貴 ……振り返った体制での、その、背後に 彼女は、姿を現した どすっ、と 兄貴の体に、ナイフが突き刺さる 「が……っ!?この……-----!?」 『23時16分。私はどこ?くすくすくす』 「その変態の、足元だよ」 振り返ったとき、それはもう、そこにいない 代わりに、全裸兄貴の足元に…現れて すぱりっ、その足が切り裂かれる 「------っ」 がくり、膝をつく兄貴 五十嵐は、その姿を……汚い物を見下ろすように、笑った 『23時18分。私はどこ?くすくすくす』 「変態の真上だよ……止めを刺してくれ」 『はぁい。くすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくす………!!』 響き渡る、幼女の笑い声 それを最後に……全裸兄貴の意識は途絶え、その命は学校町から消えた 『えらい?私、えらい??くすくすくす』 「あぁ、偉いよ……質問女」 『褒められた、褒められた!くすくすくすくすくす』 傍らを歩きながら、しかし携帯電話で話してくるその幼女 都市伝説 質問女と手を繋ぎ…五十嵐は、至福の表情だった あぁ、自分は素晴らしい力を手に入れた 素晴らしいパートナーを手に入れた この力があれば……! 「…あぁ、そうだ……今度、あの人に礼を言わないと……」 携帯の番号は手に入れている 後で、礼をしなければ この、素晴らしい力を与えてくれた彼に……恩返しをしなければ 家への帰り道、質問女とて繋いで帰っていきながら 五十嵐は、悪意を滲ませた笑みを、浮かべ続けていたのだった to be … ? 前ページ次ページ連載 - 悪意が嘲う
https://w.atwiki.jp/legends/pages/487.html
…街中で、ポスターを貼っているあいつの姿を見かけた 正直、顔色はあまりよくない 相変わらず、あまり休んでいないのだろう 「よぅ」 「あ…あなたですか。最近、よく会いますね」 小さく、会釈してきた黒服 ぷるんっ、とのその拍子に胸が揺れて ……だから、そこを見つめてばっかりじゃ駄目だろ俺ぇえええええ!!! 「明日で、元に戻るんだったか?」 「はい。明日には、毒ガスの効果が抜け切るはずですから」 …あぁ、やっぱり勿体ねぇよなぁ… ……って、だからそうじゃなくて!! 「ご用件は、それを聞きにきただけですか?」 「いや、そうじゃねぇよ…」 手を差し出してやる 首を傾げてきた黒服に、続ける 「貸せよ、そのポスター。貼っていかないと駄目だんだろ?」 「……いえ。これは、私が頼まれた仕事ですから」 …頼まれた? こんな疲労困憊のこいつに、頼み事をしたと言うのか どこのどいつだ、そのやろうは!? この黒服は、頼み事を断るのが苦手だと言うのに! ムカムカしたものを抱えつつ、俺は手を引っ込めない 「お前一人でその量は大変だろ?半分くらい、俺が張ってきてやるから」 全部、と言ったら、こいつはきっとやらせてくれない さっき言ったとおり、自分が頼まれたから、といって引かないだろう …だから、半分だけ せめて、これだけは請け負いたい 「……それでは、お言葉に甘えましょうか」 苦笑して、ポスターを半分ほど、俺に手渡してきた黒服 それと、メモを渡された …何か、文字がぐっちゃぐちゃになってて読めない部分が大半なんだが… 「このメモの…ここから、下の部分。大体の住所しかわかりませんが、この辺りに張ってきてください」 「わかった。つか、メモ、俺に渡して、場所わからなくならないか?」 「メモの内容は暗記していますから、問題ありません」 記憶力も良くないと、黒服の仕事はやっていけないものなのだろう こともなげに、こいつはそう言って見せた …そうか、と頷く 「……なぁ」 「はい?」 「『夢の国』に対して、そっちの「組織」は、どう言う動きを?」 俺の、言葉に…黒服は、やや、悲しそうな表情を浮かべた こいつにとって、あまりいい内容ではなさそうだ 「…取り込まれた子供の身も、契約者の身も考えずに…相手の戦力を削る作戦が、つい先日、決行されたそうです…」 「………っ!」 …それは、つまり 「夢の国」に取り込まれている子供や、契約者が…一部、犠牲になったということか なんと言う、非道な作戦 将門様が知ったら、激怒するだろう …そして こいつは、その事実に悲しんでいる その作戦を、止められなかった己の無力さを…悔やんでいる あんな組織、さっさと抜けてしまえばいいのに こいつは、どこまでも、自分は「組織」の歯車であると言って、縛られ続けている …あんな組織、こいつには似合わないのに こいつは、それから離れることができない 「…胸糞悪ぃな」 「……同感です」 苦笑してくる黒服 力なく、首を振ってくる 「これが…組織、ですから」 「……………」 …こいつは 組織に不満を持ちながらも しかし、自分は組織の歯車だからと……組織から離れたら、生きられないと、そう考えて 組織から、離れることができないまま 俺は、こいつを組織から解放させてやりたいのに ……未だに、それができないままだ 「…しかし。これ以上、そんな事をさせる訳にはいきません…一人でも多く、「夢の国」の黒いパレードに取り込まれてしまっている子供たちを、救う事ができればいいのですが…」 「……無理、すんなよ?考えがあるなら、俺にも協力させてくれよ?」 今回の件について、ある程度「組織」と協力体制をとってもいいと、将門様から言われている 特に、この黒服に協力するのなら、文句は在るまい こいつは、俺たちにも、この危機を教えてくれたのだから 俺の言葉に、黒服はどこか自嘲気味に、笑ってきた 「…そう、ですね。その時が来たら…ご協力、願うかもしれません」 きっと、こいつは 己の無力さを嘆いているのだろう 自分には、戦う力がないと、嘆いているのだろう どうか、嘆かないでくれ あんたには、戦う力はないかもしれないけれど …俺は、そんなあんたに、救われたんだ 「…それでは、これで。……お願い、しますね」 「あぁ。任せろ」 黒服は、俺に小さく頭を下げてきて そして、少しふらつきながら、この場を後にする …くぉら、周りの男共 あの胸に見とれてんじゃねぇ!! いや、俺だって、うっかり胸に注目しちまったけど!! 後半、わりと頑張って見てなかったんだぞ、こら あれに触りたい誘惑は、最後の最後まで堪えたんだ!! だから見るんじゃねぇえええ!!!!!! 黒服の胸に見とれてやがった野郎共を、威嚇してから 俺は、ポスターを張りに行こうと歩き出し… 「………げ」 「………」 …小さな、餓鬼が こっちを見ている事に、気付いた 以前、顔をあせた事がある、少女 「…また会ったな」 「…………」 向こうは、ぷい、とそっぽを向いてきた なんだ、俺とは会話もしたくないってか? どうやら、黒服が、今、気にかけているらしい少女 多分、契約者で……あまり、恵まれた環境にいるのでは、ないのだろう だから、あいつが気にかけている …そして 多分、以前会った時の態度から、するに こいつも、あの黒服の事を、少しは気にかけている ……それなら この話を持ちかける価値は、あるかもしれない 「……お前、あいつのこと、心配か?」 「え?」 「それと……お前は、「組織」の一員か?」 俺の、その質問に こいつは、前半には答えてこず、後の方にだけ答えてきた 「…あんな組織、できれば関わりあいたくもないわよ」 「………そうか」 良かった こいつは、組織の一員ではないのか それなら…話しても、いいだろう 「…あの黒服が心配なら、ちょっとついて来い。話がある」 「……?どういう事よ」 「いいから」 そう言って、俺はさっさと歩き出す 少し迷ったようだったが…そいつは、俺の後をついてきた やっぱり、あいつの事が心配だったようだ なら……俺と、同じだ ひとまずは、このポスターをある程度貼っていかないと 安心して話せる場所を探しながら、俺はポスターを張って回る事にした …そして 結局行き着いたのは、カラオケ店 態度の悪い店員が一人きりで、管理なんぞおろそかな店 多少、客の組み合わせがおかしくとも、店員は何も言ってこない だから、俺たち「首塚」組織の面子で、たまに会議とかに使っている店だ 入っても、歌う訳じゃなく、相談しあったり、近況を話し合ったりするのによく使っているのだ 適当な部屋を取って入り…話を切り出す 「…ぶっちゃけて言う。俺は、あの黒服を組織から解放したい」 「……解放?」 「あぁ」 そうだ 解放してやりたいのだ あの黒服は、あの組織に相応しくない …いや、違う、逆だ あの組織が、あの黒服に相応しくないのだ あいつは優しいから、慈悲深いから …あんな非道な組織、あいつに相応しくない それに… 「解放はできなくとも……もし、万が一。あいつが組織に消されそうになった時、助けたいと思っている……あいつは、組織に消されかねない行動もとっている。お前も、それはわかってるだろ?」 「…………」 少女は、俺の言葉に俯いてきた 多分、わかっているのだろう あいつが、そんな行動も取っている事に かなりの数の都市伝説や契約者を見逃し、時には庇っている事を 「…方法が、あるというの?そんな時、黒服を助ける方法が」 「ある」 きっぱりと、俺は答える …やっと、一つ見つけたのだ その、方法を 「あいつは、「組織」の黒服だ。「組織」に不要だと判断されたら、その時点で消えかねない。ここまでは、わかるな?」 「………」 「そうなっちまうのは、あいつが「組織」の黒服だから…「組織」と言う都市伝説の、一部だからだ」 「組織」 それは、都市伝説 そして、黒服は都市伝説の、一部 「つまり、あいつも「都市伝説」である事に、変わりはない。どれだけ、人の心を残していても、あいつは「都市伝説」なんだよ」 「…何が言いたいの?」 「つまりだ……あいつだって、都市伝説なんだから。人間と、契約できるはずなんだよ」 ぴくり こちらの言葉に、少女は反応した はっとしたように、顔をあげる 「ぶっちゃけ、「組織」の実態自体は、構成員すら知らないって言われているらしいな。「組織」の首領が、「組織」と言う都市伝説と契約しているのか、そもそも、バカデカイ野良都市伝説なのか、その辺りは、よくわからねぇが……少なくとも、黒服たち事態、都市伝説なんだ。契約は可能なはずだ」 「…つまり…黒服と、契約すれば……黒服が、「組織」に不要だと、判断されても……消滅しないかも、しれない。そう言う事?」 お、頭の回転の早いお子様だ そうなれば、話は早い 「そうだ、だから…俺は、あいつと契約したいと思っている」 「…………」 こちらの言葉に、むっとしてくる少女 だが、無視して俺は続ける 「だから、お前も協力しろ」 「…なんで、私があんたなんかが、あの黒服と契約する手伝いを…」 「お前も、あいつと契約してくれ」 ……… …………… 「え?」 俺の言葉に 少女は、きょとん、としてくる 「…私、も?」 「あぁ…ぶっちゃけ、俺一人があいつと契約しようとしたら、絶対、あいつに反対される…属性が違いすぎる多重契約は危険だ、って言われてな」 そうだ きっと、あいつは反対してくる 多重契約して、都市伝説に飲み込まれやすくなる事を心配して 絶対に、反対してくるに決まっている …だから 「多分、お前が一人で、あいつと契約するといっても、それは同じ結果になる。反対してくるはずだ…だが、俺とお前。二人であいつと契約するなら、問題ないはずだ」 「………ストップ」 何だよ 調子よく話しているのに 「…一つの都市伝説が、多人数と契約なんて、できるの?」 「半分、裏技みたいなもんだがな。可能だぜ」 それは、確かである はるか昔、復讐のために、2,3人の男が将門様と契約した事があったらしい 一人だったら、将門様の強大すぎる力に、あっと言う間に飲み込まれる だが、それを複数で分担して背負えば…ある程度は、耐えられたらしい そうやって、その男たちは将門様の力を借りて、復讐した 「ほぼ同時に契約を結べば、それは可能だ。そして、それなら…多重契約でも、都市伝説に飲み込まれるリスクは下がる」 それなら あいつは、承諾してくれるかもしれない 俺は、それに賭けたいのだ 「俺一人が申し出ても無理だ。でも、お前も一緒に申し出れば、あいつは承諾してくれるかもしれない」 「………」 「今すぐ、返事をしろとは言わねぇ。俺の携帯の番号教えとくから、答えが決まったら返事しろ」 そう言って、紙に俺の携帯の番号を書いて手渡す …悩んでいたようだったが、こいつはそれを受け取った 「…あ、それと。抜け駆けすんなよ!?俺は、あいつと契約して、あいつの力になりたいんだ。他の奴を割り込ませるなよ!?」 「……わかってるわよ」 やや不機嫌そうに、少女はそう言って来た 今日は、ここで別れる 返事は出来るだけ早く、とだけ言っておいた …そうだ これが、俺が見つけた答え あの黒服を、助ける方法 これしか、見つけられなかった そして、この唯一の方法は…俺一人では、実行できない だから、必要だったのだ 俺のように、あの黒服を心配しているであろう…気にかけているであろう、奴が 俺にとって、あの黒服は父親のようなものだ あの少女にとって、あの黒服がどんな存在かは、わからないが…気にかけているのは、心配しているのは、きっと事実 だから、その唯一をあいつにも話した あいつが話に乗ってくれれば、俺は黒服を助けられる 乗ってこなかったら… その時は、他に話に乗ってくれそうな奴を見つけ出すか これが唯一であると諦めず…他の方法を探すかだ 「…絶対に、あいつを……俺たちのものに、してやる」 二人がかりで説得すれば、きっと大丈夫だ 絶対に、諦めない あいつから預かったポスターを抱えながら 俺は、その決意をしっかりと抱えるのだった to be …? 前ページ次ページ連載 - 首塚
https://w.atwiki.jp/legends/pages/3509.html
西区にほど近い、廃棄された製薬会社。 黒服に指定されたその場所に着いた。 錆びついた看板や窓枠の外された外観が不気味な印象を与えてくる。 「なんだか、嫌な雰囲気の場所だね…」 「そう、だね… でも、紗江ちゃんは私が護るから!」 『都市伝説の気配が致すな…お二人共、用心下され』 アンサーが呟いた。 「お待ちしていましたよ」 建物の入り口から、担当の黒服が姿を現した。 「「…黒服さん?」」 「おや、私が現場にいる事がそんなに不思議ですか…?契約者を担当している黒服も、現場に出る事はありますよ…こちらです」 黒服について、建物内部に入る。 階段を下りて、地下室の、同じような作りの部屋がいくつも並ぶ長い廊下を歩きながら黒服が話す。 「今回の任務ですが…とある都市伝説を救って頂きたいのです」 「都市伝説を…救う?」 「ええ。都市伝説は、忘れられると消滅します。存在を保つには、一人でも多くの人間に存在を知ってもらわなければなりません…貴女方には、この場所にいる都市伝説の存在を保つための手伝いをしていただきたいのです」 どうやら今回の任務はとある都市伝説を救う事らしいが…担当の黒服の不穏な情報の事もあり、その言葉を信じきる事が出来ないでいた。 「……あの、黒服さん…以前お伺いした件なんですが…」 ここで聴き逃したらチャンスが無いような気がして、意を決して、紗江が尋ねる。 廊下の突き当たりの扉を開けながら黒服が呟いた。 「ああ…担当の黒服を変えられるか、という話ですね。その件でしたら、特殊な事情があれば変えられますよ」 あっさりと返ってきた肯定を、喜ぶべきか迷った。 促されて、部屋に入った姉妹。黒服は自分も部屋に入った後、扉を閉めた。 広めの部屋には、二人の黒服がいた。一人は、部屋の中心にビデオカメラを設置している。 もう一人はビデオカメラの近くの床の上に、鉈、鋸、鋏、金属バット等を置いている。 「ぅ…………!」 明らかに異様な光景。そして、部屋の中には猛烈な血の匂いが充満していた。思わず、口元を押さえる。 ふと、部屋の隅に無造作に転がっているものが目に入った。 ―家を出るまで生きて話をしていた、姉妹の、両親の死体だった。 「――――――!!」 「ぁ……うあ……!」 悲鳴を上げたはずだったのに、口からは途切れ途切れの言葉しか出てこなかった。 紗江が、紗奈に死体を見せないように、庇うように前に出た。 両親の死体は、巨大な獣にでも食われたかのように所々食い荒らされていて、腹部に至ってはその中身がこぼれ出ていた。本来は射殺されているのだが、その傷口のあった周辺も食われていた。 「ああ…救って頂きたい都市伝説は『スナッフフィルム』といいます。娯楽用に流通させる目的で行われた、実際には存在しないといわれている殺人ビデオの事です。 なにしろ、存在しないといわれているだけあって、個体数がなかなか確認できていないので… 『スナッフフィルム』が学校町中に広まれば、面白い事になるでしょうからねぇ… ご両親ですが…娘が死ぬのに、親だけ残しては可哀そうですからねぇ…先にあちらに送って差し上げました」 姉妹の前に立って、笑みを浮かべながら話す、A-No.666。 …それは、ある意味で実験材料と呼べるものだったのかもしれない。 ―そんなことの為に、両親を殺したのか 「――貴方っ…!」 言葉が途切れた。いつのまにか傍に来ていた、凶器を並べていた黒服に髪を掴まれて横倒しにされ、仰向けに転がされた。紗江ちゃん!と自分の名を呼ぶ紗奈の声と、床と擦れる背に感じる痛みにも似た摩擦熱と、髪を引っ張られる痛みを感じながら、そのまま部屋の奥までずるずると引きずられていく。 紗江が引きずられていくのを見て、助けようと反射的に上着のポケットから携帯を取り出した。 直後、担当の黒服に携帯を奪い取られた。 「全く…助けを求めるにしろ、都市伝説の能力を使うにしろ、私を忘れてもらっては困りますねぇ…」 そういいながら、無造作に携帯を開くと、ばきり、と真ん中から二つにへし折った。 携帯の残骸を床に落とし、紗奈の腕を掴むと、部屋の真ん中―ビデオカメラの前に引きずって行き、勢いよく突き飛ばした。 ビデオカメラを設置していた黒服が、カメラを回し始める。 ―― 部屋の奥まで引きずられ、ようやく黒服が止まった。 起き上がろうとしたら、三、四回ほど顔を殴られた。 黒服が、懐から何かを取り出した。カチャリ、という金属音。パン、という乾いた音と、脚に激痛を感じた。 思わず目を向けると、脚が赤く染まっていた。 黒服が手にしている拳銃から、硝煙が上がっていた。 黒服は拳銃をしまうと傍にあった金属バットを、紗江の左腕に叩きつけた。 二の腕が赤黒く変色し、曲がるべきではない方向に曲がった。 「……………!!」 声も出ないほどの激痛とおぞましい感覚に、額に嫌な汗が浮かんだ。 そうして、首を絞められた。 ぎりぎりと爪が食い込んで、痛い。息が出来ない。苦しい。 少しずつ周囲の音が遠くなっていく中、紗奈の悲鳴が聞こえた。 (紗奈ちゃん……!?) もがいた右手に、何かが触れた。 それ――小振りの斧を掴んで、黒服の頭に思い切り叩きつけた。生暖かい返り血を浴びた。 首を絞めていた手が外れ、血をまき散らし、斧を頭から生やしたまま、黒服が真横に倒れこんで、動かなくなった。 げほげほと咳き込み、激痛に堪えながら壁を支えにして上体を起こす。 (紗奈ちゃんは―――!?) 視界に、血塗れの紗奈にのしかかった担当の黒服の姿と、三つ首の大きな獣の首の一つが紗奈の脇腹に食らいついているのが見えた。 あの獣が、どこから出てきたかなんてどうでもいい。両親と最愛の妹を害した。それだけ分かれば十分だ。早く殺して、紗奈が手遅れになる前に救急車を呼ばないと。 一人になりたくない、紗奈を失いたくない。 紗江の憎悪に引きずられて犬神が徐々に数を増していくが、その姿は蜃気楼のように揺らいでいて、酷く不安定だった。 紗江は、犬神の数が増える度に、自分が自分で無くなっていくのを感じていた。 (………私はどうなってもいい。紗奈ちゃんだけは、絶対に助ける) 担当の黒服を睨みながら、行って、と犬神達に指示を出す。どうにか形を保っている二十から三十匹ほどの犬神の群れが担当の黒服と、その後ろでビデオを回している黒服に向かっていく。 ――― 両親が無残な姿になっていた。巻き込まれて、死んでしまった。 携帯電話を壊された。 一応、アンサーとの繋がりは感じ取れるものの、都市伝説の能力も使えないし、天地達に助けを求める事も出来ない。 (――どうしよう…どうしよう…!) 腕を掴まれてビデオカメラの前まで連れて行かれ、突き飛ばされた。焦りと恐怖と混乱で半ばパニックになっていた紗奈の視界に、担当の黒服の姿が映った。 ――担当の黒服がサバイバルナイフを振り上げていて、がつっ、と左の掌を貫通して床に突き刺さった。 「――うぁ……!?」 黒服は、床に置いてある凶器の中から小刀を選ぶと、紗奈にのしかかり、右目に小刀を近付けて――ぶつ、と上瞼に突き刺した。 「――あああああああああああああああああああああああああああ!」 ――痛い!痛い! 絶叫を上げた。視界が真っ赤に染まった。 刃ががりがりと瞼の肉を削ぎ、眼窩の骨を削り、神経を寸断しながら何度も何度も抜き差しを繰り返して右目を蹂躙して行く。 自由になっている右手で必死になって小刀を持った腕を引き剥がそうとするも、少女の力では引き剥がせず、ただ縫いとめられた左手の傷を広げていくだけだった。 右目が痛みの坩堝と化していた。涙なのか血液なのかも分からない、熱い液体が頬を濡らしていく。 永遠のようにも、一瞬にも感じた蹂躙が終わりを告げた。 やがて、ごぼ、と濡れた音をさせて、眼球が掘り出された。瞼の裏に、空気が入り込んだ。頬を伝い、眼球は、血の跡を引きながら床に転がり落ちて行った。 朦朧とする意識のなか、涙でぼやけた左目の視界に大きな獣の姿が映った。 直後、脇腹に熱さと苦痛を感じて、一瞬、息が止まった。 呼吸をする度に、脇腹の傷が、絞られる様に痛む。 (…紗江ちゃん、ごめんね…護るっていったのに……) 溢れ出る血液が、体温を奪っていく。 (私…紗江ちゃんに…何にも言えてない……ちゃんと…伝えておけば、良かった…) 紗江への想いを自覚したものの、嫌われたくなくて伝えられなかった事を後悔しながら意識を失った。 閉じられた左目から、一条の涙が零れ落ちた。 「おや…この程度で気を失うとは情けない。もっと楽しませて貰いたかったのですが… ケルベロス、出てきてしまったんですか。仕方ありませんねぇ…」 A-No.666は、血の匂いに反応して出てきたケルベロスに、やれやれ、と肩をすくめた。 首の一つは、紗奈の脇腹に食らいついている。 (都市伝説の存在を一般人に知らせる訳にも行きませんし……このテープは、過激派への土産にでもしましょうか) 「次は……ハラワタでも、引きずり出してみましょうかねぇ」 『グルァァ!』 犬の咆哮が聞こえ、目を向けると二十から三十匹ほどの犬神が、群れとなってこちらに向かってきていた。 「ひっ………!」 後ろでビデオを回している黒服が、引き攣った声を上げた。 だが、A-No.666に焦りは無い。 直後、ケルベロスの二つの頭が、ごう、と口から炎を吐いて、こちらに向かってきていた犬神の群れを一掃した。 『ギャッ!』と、犬神の断末魔が上がり、灰も残さず消滅した。 炎が消えた後、残ったのは床の焦げ跡と、血に染まり、荒い息を吐きながらこちらを睨み据えている紗江の姿だった。彼女の周囲に何十匹もの犬神がいたが、それらは蜃気楼のように揺らいでいて、酷く不安定だった。 能力に、器の方が追い付いていないだろうことは一目で分かった。 都市伝説に、飲まれかけている状態。放っておいても勝手に自滅する。 何より、ケルベロスの炎に耐えられるものなどいない。 己の絶対な優位を疑わず、A-No.666は笑みを浮かべた。 続く…?